大学時代は映画制作に熱中し、なんと1年留年してしまった経験を持つなど、とにかく“自分のやりたいことをやる”姿勢を貫く池田利夫さん。学生の頃から変わらない、その信念で編集プロダクションを立ち上げ、その後に出版社を設立。現在に至るまで自らが「面白い」と思うことを追求し、書籍といった紙媒体だけでなく、電子書籍やイベントなどで世の中に提供し続けている。取材中、何度も「仕事が面白い」と口にした池田さんは、まさにお手本にしたい先輩だ。
高校の頃、大学に進学したら理系の勉強がしたいと思っていました。当時、筑波大は最先端のことやっていると世の中的に認識されていたので、そこで勉強したいと思ったのです。もともとロボットに関する勉強がしたかったのですが、当時注目されはじめていたバーチャルリアリティ(以下、VR)の研究室で学びました。
技術として注目されてはいましたが、世の中への普及はまだまだ先という印象でしたね。今ではスマホを使って気軽に3D映像が見られたりしますけど、当時はそういう処理をするには数百万から一千万円もするような大きなコンピューターを使う必要がありました。そのコンピューターが研究室にあって、それでもリアルタイムに動かせる立体映像として作れるのは、球体や立方体の図形程度。今のようにキャラクターが動くといったようなものではありませんでした。
そういった環境の中で、私が専門的に学んでいたのは、立体的に音が聞こえる仕組みを作る、サウンドのVRでした。
映画研究部というサークルに入っていたのですが、私は先輩がいると遠慮してしまう性格なので、サークル内ではなく仲の良い友達を集めて映画を作ったことが印象深いですね。1時間弱のものを2本作りましたが、そのうち1本は私は撮影、監督、脚本など、演じる以外の全てを担当したんですよ。
ところが映画の制作に時間を費やしたことで、1年間留年してしまいました(笑)。私が所属していた当時の第三学群基礎工学類は、2年から3年に上がる時に4人に1人は落される厳しい環境だったにもかかわらず、授業に出ずに映画撮影に夢中になってしまったんです。
大学で理系の研究をしていましたが、もう一方でマスコミに興味があったので、そちらに就職したいなと。私がいた研究室だと、まだ当時は景気が良かったので東芝や日立などといった大企業に多くの先輩方が就職しましたけど、マスコミにはコネがない。結局、自分の力だけで就職活動をしましたが全然ダメでした。
ようやく、12月になって採用されたのがジャストシステムという会社です。当時、一太郎というワープロソフトを発売していた会社の出版部に入って、ユーザー向けの雑誌やソフトウェアの解説書を作るなどしていました。
思わなかったですね。たくさんの先輩方が優秀な研究者になるのを見ていたので、私にはとても無理だなと。
ソフトウェアの解説記事を書いたり、PC関係のイベントを取材して記事を書いたり。もともとそういうことが好きなので楽しんでやっていました。
一方で、どんな組織に所属していても、長くいると不満が出てくるものです。同僚と飲みに行って、愚痴を言いながら解消するという方法もありますが、このあとそれを一生ずっと続けていくのはいやだなと考えました。それで、3年が経った頃に、だったら自分が社長になっちゃえばいいじゃん!という発想で独立することにしたのです。
それですぐに、PCに関する雑誌や書籍を編集する編集プロダクション、ジャムハウスをスタートし、現在では、IT、教育、ビジネスなどの書籍も扱う出版社となっています。
当時、26歳で若かったですからでしょうか(笑)、全く不安を感じていなかったですね。
たしかにそうなんですが、気楽なばかりではありませんでした。毎月、社員に給料を出さなきゃいけない苦労を味わいましたし、最終的に全ての責任は自分が背負わなきゃいけない。そういったことは会社員時代にはなかった経験でしたから。
設立当初は、編集プロダクションとして、本を発行する出版社から依頼を受け、雑誌や書籍の誌面制作を請け負う仕事をしていました。幸い、もといた会社からもお仕事をいただけましたし、企業勤めしていた頃に知り合った他社の編集者の方からも仕事を依頼して頂いたので、独立直後からなんとか仕事を得ることができました。
現在、出版社である自社の発行物でいうと『一太郎使いこなしガイド』や『親が知っておきたい学校教育のこと』といった書籍があります。
また現在でも引き続き、編集プロダクションとして、他社から依頼していただいた雑誌や書籍の制作にも関わっています。最近ではディアゴスティーニが発行しているロボットを組み立てる「週刊ロビ2」に編集協力するなどしています。自社だけではきないような企画も、大きな出版社と組むことで実現でき、たいへんやりがいがありますね。
書籍を作る場合には、企画を立てて、著者に原稿を依頼し、書いていただいた原稿を編集します。デザイナーに依頼してフォーマットを作ってもらい、ページにレイアウトしてもらい、印刷所に入稿。そのあと、校正作業を何度か行って、印刷・製本して、書店に本が並びます。本ができたら、営業活動も行います。
雑誌の仕事では、最近、取材に関わることが多いです。話を聞かせて頂く取材相手のセッティング、そしてカメラマンの手配からはじまり、取材記事は自ら話を聞いて執筆することもありますし、解説記事は専門のライターに執筆依頼し、頂いた原稿をもとに誌面を構成するといった流れです。
そうした場面では、大学で勉強した理系の知識が大いに役立っていますね。もちろん、全然知らないジャンルの人を取材する場合もあります。そんなときには、その人が書いた書籍を読んだり、その人が専門とするジャンルの情報を探したりするなど、しっかり勉強してから取材に臨みます。
皆さん協力的なので、取材での苦労は特にありません。しいて言うなら、忙しい皆さんの日程を調整することぐらいでしょうか。
基本的に取材は面白い、この一言に尽きます。会いたい人に会いに行ってお話を聞けますし、現在活躍されている方に会ってお話を聞けます。そして、子どもの頃から憧れていた人にお会いできることもあります。
そうですね。「こういう本が出したい」と思ったらスピード感をもって実現できますね。たとえば、プログラミングができる小さなマイコンボード「IchigoJam」という製品を見つけて面白いと思い、すぐに開発者に会いに行き、「親子でベーシック入門 IchigoJamではじめてのプログラミング」という書籍を作りました。昨今、小学生向けのプログラミング教育がブームのようになってきていて、この書籍も注目されています。本で発信するだけにとどまらず、子供向けのワークショップも開催するなど、私がやりたいと思ったことをすぐに実現できるのは、独立したからこそだと思います。
子供の発想は自由ですから、教え方次第で今後の可能性が広がっていく、というのが理由です。子供向けのプログラミングコンテストにも協賛しているのですが、子供たちは我々大人が考えないような発想のものを作ってくるので、とても興味深く面白いです。
例えば去年の冬に開催されたプログラミングコンテストでは、プログラミングできるマイコンボードのIchigoJamを使って、外のモーターやハードウェアを制御することでゴム鉄砲を自動で発射する装置を作った小学生に、ジャムハウス賞を贈呈しました。
画面上のプログラミングを飛び越えたものづくりでもさまざまなアイデアが出せるのは、柔軟な発想をもった子供ならではだと感じます。
出版業界は不況だと言われています。例えば、10年前まで書店にたくさん並んでいたPC関係の解説書はほとんど壊滅的な状態です。最近では、PCのことで何か分からないことがあれば自宅でインターネット検索して情報を得られますからね。
そういった時代の変化に伴って、PC書を扱う編集プロダクションが数を減らしている中、弊社は丁寧に誠実に誌面を作ることを心がけてきました。そういった点を評価して頂き、途切れることなく仕事の依頼があり、ここまで生き残ってこられたのだと思うと、これからも変わらず、誠実に品質の良いものづくりをしていくことが大切だと考えています。
色んな教材と見比べても、「うちで作っている本は絶対に役に立つ!」と自負しているほど、子供たちがやりたいことを的確に捉えて誌面を構成していますし、その指針となるのは自分自身が読んで楽しいと思うかどうかと、小学生と中学生の私の子供に触れさせたいかどうかです。
それともう1つ誠実でありたいのは、ただ儲けに走るのではなく情報を欲している人に対してより良い方法で提供するということ。最近は紙媒体以外にもkindleを使って読める電子書籍を発行し、「親子で学ぶインターネットの安全ルール2017年版」という子供向けの書籍に関しては、学校の教材としても利用して頂くために電子版を買った人にはPDFを無料でダウンロードできる仕組みを作っています。
経営者としては商品がたくさん売れるに越したことはありませんが、色んな形でたくさんの人に活用してもらうことで社会に貢献したいという気持ちで、仕事に取り組んでいます。
いない、というより、私が起業した当時は、今のようにインターネットを使って色んな経営者と接点をもてるような時代ではありませんでした。起業をしようと思うと、300万円を貯めて有限会社を作るしかなく、全て自力でやっていかなければいけない時代だったんです。
今の若い人たちは投資家と接点を持つ機会も多く、大学生でも数千万円とか数億円を集められる場合もありますよね。また、クラウドファンディングのように、多くの人から投資してもらう手段もあります。インターネットを使って色んな起業家と早くから交流して学べるのは、とても良いことだと思います。また、3年前にできた『筑波みらいの会』を通して、たくさんの筑波大生が在学中から起業している姿を見ると頼もしく感じます。
在学中に電子工作やプログラミングなどの知識を蓄えられたことは、確実に今の仕事に生きていますし、卒業した後も、当時の仲間から刺激を受けることも大きな活力になっています。
大学時代は先ほどお話した映画研究部以外に絵画愛好会にも入っていて、やはりアート系のことに興味がある人が多いので、彼らのフェイスブックを見ては「こんなに面白いアートがあるんだ!」といったように、たくさんの刺激を受けています。
そういった貴重な出会いが得られたのも、筑波大に行ったからこそではないでしょうか。
当時は他の学類の授業を自由に受けられたので、芸専の学生と一緒にデッサンの授業を受けたり、比較文化学類の哲学の授業に参加したり。知識や交友関係を広められたのは良い経験でしたし、今の仕事における発想の源にもなっています。
筑波大は趣味など何か突き詰めたいものがあった時にとても良い環境です。誘惑の多い東京と違って遊べる場所が限られているぶん、自分のやりたいことを集中的にできる。それが将来の役に立つかもしれません。
所属: | 株式会社ジャムハウス |
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役職: | 代表取締役 |
出生年: | 1970年 |
血液型: | O型 |
出身地: | 山口県防府市 |
出身高校: | 山口県立防府高等学校 |
出身大学: | 筑波大学 第三学群基礎工学類 |
学部: | 第三学群基礎工学類 |
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研究室: | 岩田研究室(バーチャルリアリティ研究室) |
部活動: | 絵画愛好会、映画研究会 |
住んでいた場所: | 天久保三丁目 |
行きつけのお店: | ブックバーン(書店。もうないですが) |
ニックネーム: | トシ |
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趣味: | 読書、電子工作 |
尊敬する人: | 宮沢賢治 |
年間読書数: | 20~30冊 |
心に残った本: | 幼年期の終わり(アーサー・C・クラーク)、ハーモニー(伊藤計劃)、海辺のカフカ(村上春樹)、銀河鉄道の夜 |
心に残った映画: | ホテルニューハンプシャー、ブレードランナー、銀河鉄道の夜 |
好きなマンガ: | 最強伝説 黒沢(福本伸行)、モリのアサガオ(郷田マモラ)、人形の国(弐瓶勉) |
好きなスポーツ: | 格闘技(観戦) |
好きな食べ物: | カレー、地元で食べる魚 |
訪れた国: | 5カ国 |
大切な習慣: | なるべく歩く |
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