
大学卒業後、株式会社サイバーエージェントに就職し、やりがいを感じていた。しかし第一子出産後、子供に先天性の疾患があることがわかり、人生の転機が訪れる。誰にも相談できず、落ち込む日々。そんな時、SNSで株式会社ヘラルボニーを知り、転職。進むべき道が照らされた瞬間だった。SNSの情報に救われた彼女が、現在、広報として働きながら世に伝えたいこととは――。
株式会社ヘラルボニーで広報室の責任者をしております。ヘラルボニーは「異彩を、放て。」というミッションを掲げ、障害のイメージを変えることを目指して様々な事業を行っているクリエイティブカンパニーです。
障害というと、かわいそうだとか支援が必要というイメージがあるかもしれません。障害=欠落ではなく、障害があるからこそできることがある。と、私たちは考えています。そこで、障害のあるアーティストの描くアート作品のライセンスを管理して様々な事業を展開しています。自社ブランド「HERALBONY」では彼らの作品を起用したアパレルやライフスタイルグッズを販売。ショップは岩手県と、今年3月には東京・銀座に常設店がオープンしました。
その他、ホテルの部屋をアートで彩るなどさまざまな企業とのコラボレーションによるクリエイティブな仕掛けに挑んでいます。障害のある方の才能を「異彩」として世の中のさまざまなモノ・コト・バショに発露させることで、障害へのイメージ変容を目指しています。
アーティストは国内外に241名、2000点以上のアート作品をライセンス契約しています。日本人の方が中心ですが、2024年にフランス・パリに現地法人を立ち上げて海外事業を展開したことを機に海外のアーティストとの契約も積極的に進めています。現在、ドイツやオランダ、ベルギーの福祉施設ともパートナーシップを締結しています。
私たちが契約しているアーティストの多くが知的障害のある方々で、就労継続支援B型の福祉施設を利用されている方が多いです。B型の福祉施設に通う利用者さんは、一般的に商品にシールを貼ったり、パンやお菓子を作るといった生産活動をされているのですが、実は活動の一環としてアートや音楽を芸術・文化活動として取り入れている施設がありまして。
そのような施設さんを通してアーティストの方と出会い、彼ら彼女たちの描くアート作品とライセンス契約をさせて頂いています。
私もたくさんの福祉施設にお伺いしてきたのですが、「本当にここは福祉施設なの?」と驚くぐらい素敵なアトリエを構えて、利用者さんのアート活動をサポートしている施設が日本全国に多くあります。つくば市にある自然生クラブさんもまさにそうした施設のひとつで、ガレージを利用したアトリエはとてもクールな空間です。ヘラルボニーの契約アーティストの高田祐さんの作品「迷路」は、ネクタイやバッグにも起用されています。
(自然生クラブ 高田祐さん)
他にも、弊社は双子の代表が岩手県出身ということで、本社を岩手に構えています。一番最初に契約した岩手県花巻市のるんびにい美術館のアーティストの皆さんも魅力的です。るんびにい美術館のアーティストの皆さんとライセンス契約を交わしたのが弊社の活動の始まりです。実は、るんびにい美術館はメジャーリーガーの大谷翔平さんが通っていた花巻東高校の向かいに位置しているのですが、ギャラリーとアトリエを併設した福祉施設で、感情が揺さぶられるような素晴らしい企画展を開催されています。
彼らにはユニークネスな特性があります。るんびにい美術館の佐々木早苗さんの場合は、ボールペンでひたすら黒い丸を描き続けて作品を作ります。同じくるんびにい美術館の工藤みどりさんは水彩マーカーで紙に点を打ち続け、無数の点の交わりでアートを形成する。みどりさんの作品はアートラッピングバスとなって盛岡市を走るバスにもなっています。
「(無題)(黒)」 佐々木早苗
「(無題)(青)」 工藤みどり
共通するのは、飛び抜けた集中力です。同じ動作を何度も繰り返すことで芸術性が生まれ、それが彼らの作品の特徴であり、魅力なのです。
契約する作品は、金沢21世紀美術館のチーフキュレーターである黒澤浩美さんによって、現代アートとしても評価できるものを選定しています。
足の速い人がいれば遅い人もいるように、障害のある方すべてにアートの才能があると考えているわけではありません。「障害者アート」と一括りにして支援やチャリティーの文脈で紹介するのではなく、純粋にアートとして発露させる。それから「実は障害のある方が描いたものなんです」と伝えることでリスペクトが生まれるのではないかと考えています。
プレスリリースの発信、取材対応、記者会見やメディア向けイベントの企画など、いわゆる広報活動全般を担当しています。ですが、ヘラルボニーの広報の仕事は通常の業務を超えて、「障害」へのイメージを変容させること、そして新しい価値観を世の中に醸成していくことが使命です。
支援の手を差し伸べるのではなく、障害があるからこそ描けるアートの才能を「異彩」として世の中に発露させることで、リスペクトが生まれる関係性を築いていく。そのためのコミュニケーション活動のすべてが私たちの仕事です。
日本は、障害のある方と接した経験がある人が少なく、障害が日常から分断されてしまっている課題があります。障害のある人のことを怖い、可哀想と感じる人や、支援対象として上下の関係を思い浮かべる人が少なくありません。そうした世間の空気は、障害のある人やその家族にとっても苦しいものです。
例えば、2024年からスタートした国際アートアワード「HERALBONY ART PRIZE」など私たちはアート展覧会を開催しているのですが、会場には必ずアーティスト本人に来てもらいライブペイントなどのイベントを行なっています。実際に障害のあるアーティストと接していただける機会をつくることで、障害へのイメージがガラッと変わることが多いです。
いまでは、サイン会に行列のできる人気のアーティストもいます。お客さまからひとりのアーティストとしてファンになってもらい、名前で読んでいただけることはとてもうれしいことです。
他にも、私たちのスタンスを発信する手段としてソーシャルアクションを展開しています。弊社が掲げる「異彩を、放て。」の異彩(いさい)の語呂合わせで1月31日を「異彩の日」として「異彩が当たり前に存在する社会にするために、アクションをする日」としているのですが、そうしたタイミングでアクションを行うこともあります。
今年、日本の記念日協会に“異彩の日”として正式に認められたので、今後カレンダーに明記されるかもしれません。もっと“異彩の日”や、その意図が浸透したら嬉しいですね。
2023年に発信し、注目を集めたのは『鳥肌が立つ、確定申告がある』。といった意見広告です。契約アーティストのご両親から実際に届いたメッセージを元に、ソーシャルアクションを起こしました。
メッセージには「息子が親の扶養を外れて、本人の収入で確定申告をするようになるなんて夢のようです」「ヘラルボニーさんと一緒だったら、いつか私たち親が息子から扶養される未来が来るかもしれません」と綴られていて。
私たちにとって当たり前である納税は、障害のある子を持つ親御さんや当事者からすると、当たり前ではないということ。これは私個人が当事者として感じることですが、納税することで「自分はこの社会の一員である」と自信を持てるような気がします。やはり福祉サービスを受けている身としては、税金によって社会から支えられている側なのでどこか社会に対して肩身の狭い思いがするのです。
そうした意味でも、確定申告をする作家が生まれたという事実そのものが、社会が前進する大きな一歩だと感じ、世間に発信しました。
その発信が注目を集め、国内の広告を表彰するACC TOKYO CREATIVE AWARDSでPR部門の総務大臣賞、およびACCグランプリを受賞しました。
弊社の想いを世間に伝え、そして賞を頂けたことは広報としてやりがいを感じられた出来事でした。
ルイ・ヴィトンやロエベといったラグジュアリーブランドを束ねる、フランスのLVMHグループが年に1回開催しているスタートアップ企業のアワード「LVMH Innovation Award 2024」で、全世界から1500社以上の応募がある中、昨年、弊社がファイナリスト18社に選出され、「Employee Experience, Diversity & Inclusion」カテゴリ賞を受賞しました。これは日本の企業として初めてのことです。
その特典としてパリにオフィスを構えることができ、パリに法人を立ち上げたのですが、そのタイミングで以前からアプローチしていた経済ドキュメンタリー番組の『ガイアの夜明け』に取り上げて頂くことも叶いました。
私は広報として撮影の日程調整をしたり、各所に取材の許可を取るなどを担当し、いざ番組が放送されると想像以上に大きな反響がありました。
仕事のお問い合わせを頂くことも増えたので、ハードでしたけれど実りの多い仕事だったと実感していますし、広報の仕事は経営にダイレクトにドライブできる面白い仕事だと感じました。
家から近かったからです(笑)。最初は東京の大学に進学しようと考えていましたが、親に「東京の大学にいくんだったら、お金かかるから茨城から通いなさい」と言われてしまって。
通学に時間をかけるのはもったいないから、家から近い大学にしようと。それで筑波大を目指すことにしました。センター試験を受けて、一般で社会学類に入りました。
アルバイトをして、友達と飲み会をして、車で色んな所に遊びに行って……と、大学生らしい生活を送っていましたが、就活を意識し始めた頃に「時間がたくさんあるわりに、何にも挑戦していないな」と感じて。
そんななかで、自分たちで機会を創ろうと同じ志を持った仲間たちとの出会いで『TAKE@WAY』という学生の就活支援団体の第二期生として活動することになりました。陸の孤島といわれている筑波大学で、当時はなかなかOBOG訪問もできなかったり、とにかく都内の大学と比べて情報格差が大きすぎると感じていました。エントリーシートの書き方や自己分析を手伝ったり。自分たちでOB・OGを見つけて筑波大にお招きし、学生と交流を持ってもらうイベントを企画していました。
その時のメンバーは今でも、ビジネス分野でアグレッシブに活動されている人が多いので、刺激をもらっています。
はい。それと、テレビ朝日の『学生才能発掘バラエティ 学生HEROES!』という番組で学生リポーターをしたのも、その頃です。
地元ということもあってか、つくばには面白いことがないように感じていたので、大学以外のところで夢中になれることはないかとアンテナを張っていたら『学生HEROES!』のことを知り、応募しました。筑波大にロケに来て頂き、案内したこともあるんですよ。
全国各地から色んなバックグラウンドを持った人が集まり、あの広大なキャンパスで学べたのは贅沢なことだったと思います。
私の学部は社会課題に意識が高い学生が多かったので、ヘラルボニーに入って、私の仕事のことを知って連絡をくれる同級生もいるんですよ。またつながることができて嬉しく思います。
メディアやSNSを使って情報を伝えることに興味があり、大学卒業後から10年間、サイバーエージェントで働いていました。とてもやりがいを感じていましたが、1人目の子供を出産したのを機に、今の会社に転職しました。
お医者様から「子供の発達がゆっくりだ」と指摘され、検査をしてみると先天性の疾患があることが分かりました。
将来、子どもに不自由のある生活をさせてしまうのではないか、私たち家族はずっと「かわいそう」だと思われるのではないか……と色んな感情を抱き、誰にも悩みを打ち明けることができずに落ち込んでいた時に、SNSでヘラルボニーのことを知ったんです。
ヘラルボニーのホームページには「障害=欠落ではない」「障害があるからこそ描ける世界がある」といった言葉が並んでいて。その考え方やスタンスに感銘を受けて。しばらくはSNSを追いかけてファンのように活動を見守っていましたが、採用の情報を知って応募。そして採用に至りました。
広報として会社の経営にインパクトを与えながら、ヘラルボニーをもっと大きな会社にすること。もう1つは、女性が出産したあとも、子供との時間を大切にしながら自分自身のキャリアを諦めず、全部欲張って叶えられるような社会に近づくための活動に関われたらいいなと思っています。
日本は女性の役員や管理職の割合が高くないといわれていますし、私自身の経験を通して、出産のために一度ビジネスの現場から離れ、また戻ってキャリアを積み上げるのは大変なことだと実感しています。
色んな特性のある人々が、ありのままに受け入れられる社会を作るための力になりたいですね。
日本は先進国の中で一番、障害福祉に対する偏見が強いという話もありますし、障害のある人と接したことがある人の割合が、とても低いそうです。
教育の現場でいうと、公立校にある特別支援級に通う子供たちは、通常学級の子供たちと学ぶ場所が分けられています。近年では中学受験は当たり前で、小学校受験をするご家庭も増えていますが、私立校へ進学すると支援級の生徒と生活を共にする機会はなく、完全に障害のある人たちと社会が分断されてしまいます。とても課題が大きいなと思います。
身近なところでいうと、将来、私の娘が自信を持って堂々と生きられる大人になって欲しいですし、私自身も娘のことを堂々とできる親でいたいです。大人としても、10年、20年後にそうなれる社会を作っていけるよう日々向き合っていきたいです。
自分でチャンスを掴みにいくこと、機会を創りにいくことです。そういった精神を筑波大で学びました。SNSが広まった今の時代、色んな情報を得て、自分で考えて、選択肢を増やしていくこともできるはずです。与えられた環境に不満があったとしても、自分次第でいかようにでも前向きに進むことができると信じています。
筑波大には色んな学部があり、全国各地から学生がやってくるので自分の学部だけにとどまらず、他の大学や専門学校も含めて色んな人と交流を持ち、生涯の友達を作って欲しいです。
所属: | 株式会社ヘラルボニー |
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役職: | 広報室 シニアマネージャー |
出生年: | 1989年 |
血液型: | B型 |
出身地: | 茨城県土浦市 |
出身高校: | 土浦第一高等学校 |
出身大学: | 筑波大学 |
学部: | 社会・国際学群 社会学類 |
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研究室: | 土井ゼミ |
部活動: | サッカー同好会、桐政会、Take@way |
住んでいた場所: | 実家 |
行きつけのお店: | 天久保2丁目のココス |
ニックネーム: | しな |
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趣味: | 旅行、アート鑑賞、カフェ巡り |
特技: | マルチタスク |
年間読書数: | 20〜30冊 |
心に残った映画: | アバウト・タイム〜愛おしい時間について、プラダを着た悪魔 |
好きなマンガ: | HUNTER×HUNTER |
好きなスポーツ: | ヨガ |
好きな食べ物: | カフェラテ、旬の果物 |
訪れた国: | 8カ国 |
大切な習慣: | 何事も生で見る・体験すること |
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