陸上に没頭する日々から一転、大学時代の恩師との出会いによってストレスについての研究に没頭する学生生活を送った。現在JAXAで宇宙飛行士の健康管理を担っている山村さん。体育から宇宙業界に、少し変わったキャリアを持った彼は、探究し続けた結果が今に繋がっていると言う。未来志向の環境の中で挑戦の日々を送っている山村氏に話を聞いた。
中学校から陸上競技を始めて、自分のトレーニングに試行錯誤をしていたんです。どうやったら人間の体は筋肉がつくのだろう、効果的にトレーニングできるのだろう、と。そうやって人の身体に興味を持つようになって、人の身体について探求を深めたいなあと思った時に「スポーツ医学」という選択肢が出てきて。
専門的に学べそうな早稲田、東海、日体、順天、鹿屋、筑波と候補を考えて、その中なら迷わず国立だし筑波大学だろうと。現役中はあまり勉強もしていなかったので、1年浪人しました。
1回も見学などせずに入学し、最初の感想が「すごいな!」でした。1年浪人してでもチャレンジした自分の選択は間違っていなかった、と入学してすぐに思いました。
体育の学生は当時1学年280名くらいいて、日本を代表する選手もたくさんいましたし、日本代表ではなくとも勉強も競技も頑張ろうという学生もいっぱいいて。
その環境の中に自分の身を置いて切磋琢磨できるという点でワクワクしましたね。入学直後に階段教室で最初全員一緒に集まったときのあの感覚は忘れられません。
大学3年生までは陸上中心の生活で、四六時中陸上部の連中と朝から晩まで一緒に過ごしていました。陸上部の推薦で入ってくる選手は各種目の日本一の選手なのですが、そんな選手も一般の学生と同じ目線で近い距離感で一緒に練習できすごく刺激になりました。
僕らの競技力が低いこととか一切関係なくちゃんと話も聞いてくれるし、アドバイスもくれるし、医学部で陸上を頑張っている仲間もいましたし。そういう人たちの姿勢が全て刺激になっていました。
はい。大学1年の時に運動生化学の征矢先生の授業を受けて衝撃を受けて、研究室選択の時は迷わず征矢研究室に入りました。
僕たちは運動すると“筋肉が”とか“骨が”とか“関節が”みたいな話をしがちなんですが、征矢先生は「それらは全て脳が司令を出しているんだから脳の研究しなきゃダメだろ」っていうんです。ストレスも悪いものだと思って生きてきたら「ストレスは人間が生きていくために必要なものであってそれを使わなきゃダメなんだ」という話を授業でしてくれて。
授業もすごく気合いが入っていて、征矢先生に引き込まれましたね。
征矢先生の研究室はアンダーの頃から色々と研究させてくださる研究室で、研究室に入ってからは研究に没頭するようになりました。スペインの国立研究所に人事交流で行かせていただいたり、とてもいい経験をさせていただきました。
大学3年から修士を修了するまでの4年間は運動とストレスについて研究しました。
当時、運動すると脳にいい効果がありそうだと言うことがわかってきていましたが、高強度すぎるストレスになりそのいい効果が得られない。適切な強度はどのくらいでどんなメカニズムなのか、と言うことを研究していました。
研究を本気でやろうとすると時間が足りなくて4年生になる時には選手としては区切りをつけて、教職も取らず研究に没頭していました。
あまり具体的には考えていなかったです。人の身体の探究が面白かったと言うのもあり、研究者や企業で研究職がいいなくらいのぼやっとした感じでした。
研究者になることを描きつつも、なんとなく就活をし始めた時にたまたま有人宇宙システム株式会社という会社を知って。元々宇宙に興味があったということもあり、宇宙×身体×ストレスのキーワードにはまりました。
会社について調べてみると、どうやら自分のやりたいことができそうだ、と思い応募したところ運良く採用していただきました。2015年からはJAXAに出向して宇宙飛行士の健康管理を担当しています。
宇宙飛行士の健康管理ということで、大きく4つの業務を兼務しています。
1つ目はバイオメディカルエンジニア(BME)という健康管理領域担当の運用管制官です。国際宇宙ステーション(ISS)内での医学検査や定期面談などの健康管理として行う活動の計画調整、地上からのサポート、NASA経由で地上に下ろしたデータの授受管理を行います。
2つ目が環境管理担当で、国際宇宙ステーション内の空気質、微生物、騒音など、国際パートナーの専門家たちと健康に影響しうるさまざまな課題について協議しながら、必要な対策や規定の見直しなどを行っています。
3つ目は精神心理支援担当で、宇宙飛行士やそのご家族のメンタルヘルス、パフォーマンスや疲労、睡眠に関して、面談などを通じて必要な支援を行っています。
4つ目はポストISSプロジェクトに向けた研究開発も担当しています。ISSは国際プロジェクトで行っていますが、実は健康管理に関する機器や手法というところでは日本が貢献できているところはすごく小さいのです。
次のプロジェクトでは、少しでも貢献できる部分を増やしたくて、日本の強みのある分野で切り込みたいと思っています。ただ、国際プロジェクトで任せてもらうには、認められるだけの実力をつけなくてはいけない。そのための研究開発に取り組んでいます。宇宙業界だけだとどうしても限界があるので、協力してくれる人たちを増やす活動も行っています。
院生のときにスペインに行かせてもらった経験が今生きていると思います。
スペインの研究所の方々に日本の習慣、風習、歴史、宗教などについていろいろと聞かれたのですが、自分の国のことなのに全然答えられなくて。これは愕然としましたね。こんなにも日本のことを知らないのかと。
他にもスペインの文化や習慣にふれて、いつもの生活範囲の外にちょっと出るだけでこんなにも気づくことがたくさんあるのだなと。それが随分と飛躍して、宇宙業界という地球の外を出てみようという方向性になっています。
日常の業務を進める上でも自分の固定概念とか無意識の思考のクセにとらわれないようにすること、時には現状を客観視してみるという意識をもつようにしていますので、宇宙業界以外の方と接する機会を大事にしたいと思いますし、これまで交流のなかった業界からも協力してくれる人たちを広げられるような活動にも積極的に取り組んでいます。
大きな意味で挑戦が許される環境であることが楽しいです。やはり宇宙業界はフロンティアですから。もちろん、何でも簡単に新しいことは通るわけではないし、提案をするにはそれなりに戦略や調整が必要ですけど、それでも、新たな取り組みが求められる空気があると思います。
職場には未来志向の方が多いような印象もありますし、そういったエネルギーを持った方と一緒に仕事をするのはとても楽しいです。
誰もが当たり前のように地球低軌道の宇宙に行ける時代を実現していきたいですし、火星にも人を送り込みたいです。これはどちらも本当に実現してみたいと思います。
あと、ISSのような国際プロジェクトは、協力の中に競争があります。本当の信頼関係は実力なしには築けないことを実感しています。他国からも信頼される高い技術力とスキルを持ち合わせた日本の健康管理を実現していきたいと思っています。
本音で語って本気で考えるでしょうか。筑波大では宿舎や研究室などで四六時中だれかと一緒にて語って考えていたような気がします。その中でいろいろな気づきもあったし、自分の考えも整理できたような気がします。結果的にそれで今の自分があると思いますし。
筑波大の最大の利点は1か所のキャンパスに全学部・全学科が集まっていることだと思います。いろんな人たちと交流できるチャンスがある。あとは、多くが宿舎生活を経験することも大きいと思います。宿舎じゃなくても基本的に大学に近いところに生活基盤があるので、個々と深く関わることが自然とできるんじゃないかなと。
そこで考えたり気づいたりすることがとても重要な気がしています。自ら求めれば、楽しく実りある学生生活が送れるんじゃないかなぁと思います。
所属: | 有人宇宙システム株式会社 |
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役職: | 研究開発員 (副主任) |
出生年: | 1984年 |
血液型: | B型 |
出身地: | 福岡県福岡市 |
出身高校: | 福岡県立筑紫丘高校 |
出身大学: | 筑波大学体育専門学群 |
出身大学院: | 筑波大学大学院 人間総合科学研究科博士前期課程体育学専攻 |
学部: | 体育専門学群 |
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研究室: | 運動生化学 征矢研究室 |
部活動: | 陸上競技部 |
住んでいた場所: | 春日2丁目 |
行きつけのお店: | かつ美 |
ニックネーム: | サンソン |
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趣味: | 陸上競技、航空自衛隊、古墳 |
年間読書数: | 5冊くらい? |
心に残った映画: | アンドリューNDR114 (Bicentennial Man) |
好きなマンガ: | 宇宙よりも遠い場所 |
好きなスポーツ: | 陸上競技、大相撲 |
好きな食べ物: | カレーライス、とんかつ |
訪れた国: | 12か国 |
大切な習慣: | 睡眠時間を7時間程度確保する |
口癖は?: | 確かに。なるほど。 |
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