34歳で3度の起業を経験している安藤祐輔さん。1度目は学生向けの就職支援、2度目は中国企業との共同経営、そして3度目に立ち上げた株式会社Socketでは、オンラインショッピングで個別接客ができる“Flipdesk(フリップデスク)“というサービスを提供し、今、めまぐるしい成長を遂げている。ようやく人生の軌道に乗り始めたが、取材中、何度も口にしたのは「地道に」という言葉。そこには、起業した者にしか知り得ない苦労が潜んでいるようだ。
進学校だったので大学にエスカレーターで行くこともできたんですが、どうしても大学に行く意味を見い出せず、柔道部で培った体を活かせる仕事はないかということで消防士になりました。ところが消防士として働いてみると、東大出身で消防士になった先輩の出世が早かったりという現実を目の当りにし、やっぱり大学に行こうと決断しました。この時は、仕事を通して体のメカニズムやフィジカルなことへの探究心が芽生えていたので、体育系の学校へ、せっかくなら一番レベルの高いところにと思って筑波大に入りました。
高校時代は柔道部でしたが、筑波では、大学から始めても全国大会に行ける可能性のあるトライアスロン部に入部しました。トライアスロンは3種目を競う競技なので、そのぶん練習時間が長く、ほぼ練習中心の生活でしたね。同じく個人競技の宮下純一(北京五輪競泳日本代表選手)とは酒を飲みに行ったりと、仲良くしてました。
トライアスロンの面白さは、練習したことが素直にタイムに表れることです。チームスポーツや物を使う球技だと、必ずしも自分ひとりのコンディションと結果が直結しないことがあります。トライアスロンは自分との戦いに勝てる人間が強いスポーツなので、練習メニューを作って自己管理しながら実行する――そんなことが身につく機会になりました。
最初の起業は在学中、大学4年生の頃です。就職活動を通して知り合った方と共同で、筑波の体育学生の就職を支援する会社を設立しました(筑波限定ではないがはじめの半年はほぼ筑波学生だった)。その方に言われたのは「君をはじめ、筑波の学生はみんな元気だし、ちゃんと人と接することができる人間が多い」と。だから「企業からの需要も高いのではないか」と分析されたことで、客観的に筑波の学生の魅力を知るきっかけになりましたし、僕自身の可能性にも気付くことができました。
いざ起業し、学生を企業に紹介してみると面白いように内定が決まるんです。学生は学生で、部活を引退するまで卒業後の進路について考えない人も多かったので、かなり需要はありました。大学会館を貸し切るのは無料なので、企業と学生のマッチングイベントを開催し、そこで蓄えたお金でアスリートの就職ナビサイトを立ち上げました。
いえ、大学時代はトライアスロンに熱中していた普通の体育学生でしたから、始める時は「社長になれるなんてカッコイイかも!?」というノリでしたよ(笑)。ちょうどその頃、会社法が変わり、LLC(合同会社)なら設立費用を抑えることもできましたし、仲間たちの就職を手助けできる喜びも感じていたので、紆余曲折有りもあり組織が変わったりもしましたが約2年ほどその仕事を続けました。
部活をやっている学生って全国で5,6万人しかいないんですね。その中で3万人くらいが登録するサイトになり事業の成長に限界を感じていました。そんな中、ある東証一部の会社に買収されました。
売却後もそのまま残ったのですが、新しくやりたい事業が出来たために1年程度で新しい挑戦をする道を選びました。
しかし、挑戦はうまくいかず半年程度で挫折し、茫然自失といった感じで過ごしていたんですが、ケンコーコムという会社に拾ってもらい、お手伝いすることになりました。
会社での役割は、多岐にわたりましたが私のECの基礎は全てこの会社でついたと言っても過言ではないです。
上海のパートナー会社である中国法人の会社に「日本支社を作るから一緒にやらないか」と誘われたことがきっかけです。色々あって、日本を本社にして上海支社を立ち上げるという形をとりましたが、セールス・イン・チャイナという会社の日本本社取締役に就任しました。
学生時代にノリで起業した時とは違って、この時は覚悟が要りました。ケンコーコムでの心地良い環境を手放すことに躊躇しましたし、一方、直感として「この誘いは、きっと大きなチャンスだ」とも感じました。結論を出すまでにかなり迷いましたが、最後はこう考えたんです。「会社の中で働くことと、自分で責任を持ってやるのとでは仕事のクオリティが違ってくる。オーナーシップを持ったほうがやりがいが得られる」と。
中国のプラットホームを使って、中国の商品を売る事業だったので、月に一度は現地に足を運んでいました。とはいえ、やはり市場のスピードに追いつくのは難しかったです。そんな経験を通して、日本をベースに、少なくとも自分が良い商品だと胸を張れるものを扱ったほうが、やりがいが感じられるのではないかと思うようになりました。その後、中国側に株を買い取ってもらい、中国事業から引き上げました。
経営者はあらゆる場面で責任を負わなければいけませんが、この時ほど良い人材を採用する大切さを感じたことはないですね。たとえば、過去の実績を買って年長者を採用すると、口ばかり達者で仕事をサボる人もいたりして(笑)。お互いを説得することに多くの時間を割くことになり、コミュニケーションコストだと感じました。
本来、仕事の目的とは収益を上げることです。その目標に向かって前に進める人材を僕が責任を持って選ばないと、ひとりの採用に失敗すれば、時間とお金のロスが莫大。人以外の問題は大体のことがすぐに解決可能ですが、人に関してはそう簡単にはいかないですからね。ずいぶんニガい思いをしましたが、その時の教訓は3度目に立ち上げた今の会社で、十分に生かされていると思います。
株式会社Socketで“Flipdesk(フリップデスク)”という、インターネット上で個別接客ができるサービスを提供しています。業界用語でCVR(コンバージョンレート)といって、サイトを訪れた人の購買確率を上げるために開発しました。なぜこのサービスが必要かというと、昨今、オンラインショッピングを利用している人は多いですよね。ところが実際に購買する人は、サイトを訪れた人100人に対して、たった2人ぐらい。これが実店舗なら、もっと多くの人が購買しているはずです。
どうしてオンラインショッピングは購買につながらないんだろう?と考えると、インターネットは実店舗と違って、店側から働きかけないからだと気付いて。能動的に働きかければ、もっと売れるはずだと思って開発したのがFlipdeskです。
たとえば、初めてサイトに訪問した方には「初回限定30%OFF」のクーポンを表示させたり、再訪問者には以前購入した商品と組み合わせたコーディネートを勧めたり。父の日キャンペーンで「チャットコンシェルジュ」がギフトの相談にリアルタイムにお応えするなど、サイトによってさまざまな使われ方をされていますね。
2014年9月の正式リリース以来、Flipdeskは東急ハンズやビームスなどのECサイトを中心に350社以上の企業に導入されています。また、弊社は2015年にKDDIグループSyn.ホールディングスの子会社になりました。自分でも驚くようなスピードで成長を続けています。
インターネット業界は、業界ナンバー1であることが規模を拡大していける一番の信頼材料なので、まずは圧倒的な売上ナンバー1の会社になることを目標にしています。僕にとって、今の会社で起業は3社目ですし、まさに3度目の正直で、今までのキャリアの集大成という気持ちで取り組んでいます。
身近なところでいうと、マネージメントクラスの人材を育てることも目標ですね。先ほどお話したように、会社経営で一番肝になるのは「いかに良い人材を採用するか」、そして「良い人材を育てるか」に尽きるので。
うちの会社を訪れた人に、よく「部活のような雰囲気だ」と言っていただくのですが、それは僕が人を採用する時に、“良いヤツ”で“頑張り屋さん”を採用しているからかもしれません。そういう人間が集まると社内の雰囲気が良くなりますし、その雰囲気に馴染めるような“良いヤツ”がまた入って来てくれます。
素直で、嘘をつかない人。こういった当たり前のことが、社会人としてもきちんとできている人ですね。そういう人は、パフォーマンスがそれほど高くなくても、こちらがアドバイスしたことをきちんと実践し、そして分からないことを素直に聞いてくるという改善がちゃんとできるように思います。
過大評価にしろ過小評価にしろ、社員の能力を勝手に推測してしまわず、仕事を振ってみて「こういうことが得意なんだ」「これは苦手なんだ」と判断することですね。苦手な部分を埋めるためにどうしたら良いかは、社員の性格を考慮しながら、はっきり言うこともひとつの方法ですが、気長に見守ることもあれば、こちらで引き取るという方法もあります。
育成に関しては「絶対にこのやり方が正しい」とこだわりを持つより、社員の性格次第で方法を変えるべきだと、これまでの経験から学びました。性格を知るには、仕事ぶりをじっくり見守ることが大事ですし、見守るとひと言で言っても、相手によってはオンラインぐらいの距離感が良い場合もあるし、空気感が感じられる距離感が良い場合もある。
そして気になったことを僕から言うのか、他の役員から言ってもらうのかも、その場その場で判断します。一番重要なのは、アドバイスを素直に実践できる人であること。そういった本質的な部分をきっちり見極めるようにしています。
向いていると思いますね。トライアスロンをやっていた時と同じように、自分ひとりで責任を負ったほうが怠けないし、結果も出やすい。そして失敗した時、僕ひとりで責任をとるほうがラクだという発想なんです。ただし、全くのひとりだと、それはそれでサボってしまうので(笑)、性格的にも、自分の会社を持って社員を雇っているほうが向いていると思います。
たとえば、うちの会社にいる40代のメンバーに「今度、子供が高校生になります」なんて言われると「ちゃんと利益を上げて、給料を良くしてあげないと!」と、やる気が出ます。頑張る理由が自分ではなく“メンバーのため”であったほうが頑張れるし、それが結果として利益を上げることにつながるのではないでしょうか。
事業をゼロから立ち上げるのが好きなので、ゼロから一緒に作る仲間がもっと増えたらいいですね。特にインターネット事業は、次から次へと新しいソフトウェアが、ものすごいスピードで開発されるので、「こういうものを作ったら、世の中がこんなに変わるんだ!」という成功体験がすぐに得られます。そして、その体験を共有できる仲間と、いまだに世間に抱かれているITベンチャー企業の軽いイメージを払拭したい(笑)。
新しいものを生み出すために地道な作業の繰り返しが必要なのは、どの業界も同じですし、効率良くやるよりも、結局はコツコツと積み上げたほうが近道だという点では、スポーツと同じだと僕は考えています。
Flipdeskはサービス自体はインターネット上で提供しておりますが、お客様との距離が非常に近く、お客様の声を商品にも反映しているサービスです。
チームとして、お客様からの要望をすぐに反映しているのもそうですが、「Flipdeskを気にいったから、友達にも勧めました」なんて言っていただけると、めちゃくちゃ嬉しいんです。このスピード感が、僕には合っていると実感していますね。
人との関係をきっちり作っていくこと。起業するにしても、スポーツするにしても、会社員になるにしても、時間をかけて人との関係を作っていくことは大事です。
筑波大を目指している人に「今、やるべきことは勉強です!」というひと言を送りたいです(笑)。
所属: | 株式会社Socket |
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役職: | 代表取締役 |
出生年: | 1981年 |
血液型: | O型 |
出身地: | 引っ越しがたくさんなのですが生まれは大阪です |
出身高校: | 私立成蹊高等学校 |
出身大学: | 筑波大学 |
学部: | 体育専門学群 |
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研究室: | 野外運動研究室 |
部活動: | トライアスロン部 |
住んでいた場所: | 天久保二丁目 |
行きつけのお店: | くぼや、柳仙、まっちゃん |
ニックネーム: | あんでぃ |
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趣味: | スキー、釣り |
特技: | けん玉 |
尊敬する人: | 特に無し |
年間読書数: | 10冊 |
心に残った本: | 内緒です |
心に残った映画: | イミテーションゲーム |
好きなマンガ: | うしおととら、capeta |
好きなスポーツ: | 柔道、スキー |
好きな食べ物: | うなぎ |
嫌いな食べ物: | たまねぎ |
訪れた国: | 10カ国程度 |
大切な習慣: | 準備と振り返りをする |
口癖は?: | あー、ほんとにー |
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