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いけばなと茶道は非言語コミュニケーション。いつか日仏の懸け橋になれる存在に

Professional
2024/07/08
インタビュー
  • 185
日本伝統文化事業フリーランス
鴨脚まりな
(社会・国際学群社会学類/2010年入学)

幼少時代からクラシックバレエを習い、中学、高校ではダンスの強豪校で全国を目指したと聞くと、大学卒業後もその道に進むのがスムーズであろうが、ターニングポイントは思いがけず社会人時代に訪れた。日本文化との出合い――。おもてなしのプロの背中を見て学び、今はフランスでいけばな、茶道、そして日本の心を伝えるべく奮闘している。

茶道のお点前を始めた瞬間、お喋りなフランス人が静まり返った

現在のお仕事について教えて下さい。

南フランスのモンペリエを中心に、月に5,6回ほどいけばなの教室を開講しているのと、図書館や美術館で茶道体験のイベントを年に8回ほど主催しています。

最近では、夏のバカンス先として有名なニースという町の国立東洋美術館で茶道体験を開催しました。それ以外にも、モンペリエにある日本風の喫茶店で和菓子を作ったり、販売や接客をして働いています。

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フランスで日本の文化を伝えているのですね。

モンペリエには日本人が少なく、アジア人自体少ないので私が日本人であることがひとつの重要なアイデンティティーになっているというか。日本人として日本の文化を教えることが、私の役目のような気がします。

生徒さんはフランス人が多いのでしょうか。

フランス人がほとんどですが、地中海沿いの町なので北アフリカのモロッコからの移民の方もいらっしゃいますし、フランス在住の日本の方も参加されています。下は高校生から上はおばあちゃんまで。最近は男性の生徒さんもいらっしゃるんですよ。

最初はフランス人の主人のお母さんやその友達が中心でしたが、次第に口コミで人が増えていきました。日系レストランにビラを置かせてもらったりもしましたね。

日本の文化に対する反応は?

フランス全体として日本の文化が大好きな人が多いので、私が日本人だと分かると、日本について質問攻めにもあうこともあるんですよ。

漫画やアニメから入る人もいれば、茶道や華道といった伝統的な日本文化から日本に興味を持つ人もいます。武道でいうとフランスは日本の次に柔道人口が多く、合気道を習っている人も多いですね。日本の文化について深く知りたい、追究したい人が多い国だと思います。

今のお仕事を始めたきっかけは?

新卒で星野リゾート・マネジメントに就職し、1年目に熱海の老舗旅館に配属されました。そこの女将さんが毎朝、お客様が帰られた後に、次のお客様に向けて床の間のお花を総入れ替えされている姿を見て、言葉ではないおもてなしがあることを知ったんですね。私も素敵なしつらえがしたいと、いけばなを習い始めたのが最初のきっかけです。

次は、私の地元である京都の旅館に配属になりまして。そこで客室のお花をしつらえてくださる花屋さんを見て学ぶことも多く、私が客室担当として客室のしつらえをするようになると、いけばなだけでなく、茶道や日本文化そのものに目が向くようになりました。

京都にいたからこそ、さらに日本文化への興味関心が高まった。

京都はいけばなも茶道も、あらゆる日本の伝統文化の起源になっている場所なので、学べる環境がたくさんあったことは大きかったと思います。

そんな時に、宮本武蔵『五輪書』を愛読し、寺社仏閣巡りが大好きなフランス人に出会いました。ちょうど京都の地域限定通訳案内士の資格を取ったばかりの私が休日になると彼を様々な場所に連れて行き、茶室や日本庭園などを一緒に堪能していました。そしてその方と結婚し、2021年に主人と一緒に渡仏しました。

フランスに移住する際に不安はありましたか?

すごくありましたね。2021年はまだコロナ禍でしたから、絶対にコロナにかかってはいけないと、ほとんど友達に会えないままフランスに渡り、フランスでもまだ外出制限が少し残っていたので、これからどうなるんだろうという不安がありました。

そんな中でもフランスでもいけばなや茶道の魅力を伝えたいと、個人事業主の手続きは進めていて。行政手続きにすごく時間がかかりましたが、フランスに渡った1年後の2022年9月、いけばなの教室を開くことができました。

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異国の地で、日本の文化を伝えることの大変さとは?

私自身、フランス語は日常会話程度なので、いけばなの専門的な知識や日本の文化を語る上で大切な「もののあわれ」「侘び寂び」といった言葉をフランス語で語るのは難しくて。言語的な不安がありましたし、日本では簡単に手に入った花器、花材、例えば枝物や葉物がフランスと日本では種類が違っていて、特に枝物は調達するのに今でも苦労しています。

「なんとかなるだろう」という気持ちと、「本当に大丈夫かな」という不安が入り混じってのスタートでしたね。

その後、花材等はどう調達されたのですか。

道具類は日本の私の家元がプレゼントして下さったり、ネット通販で買えるので何とかやりくりできています。また最近では仲良くなった地元の陶芸家や芸術家の方からいけばな用に花器を作ってプレゼントして頂いたりもしました。枝などはお花屋さんに交渉して取り寄せたり、時には森を散策して切りに行くこともあるんですよ(笑)。

日本には繊細で色合いも多岐にわたるお花がたくさん揃えられている一方、フランスは大振りで原色に近い鮮やかな花が多い印象です。なかでも気候上、熱帯系のお花や乾燥に強いお花が多く、日本では使ったことのない花材もあり、その違いは面白い点ですね。

いけばなや茶道の魅力とは?

フランスに渡ってより強く感じるのは、非言語でのコミュニケーションができること、言葉を超えたやりとりができることです。

いけばなですと、まず目の前にあるお花の魅力をどう最大限に生かすかが大事で、生ける過程で花材と対話したり、自然に感謝したり。その上で、出来上がった作品を他の方々と一緒に鑑賞し、移り変わる四季の変化を繊細に感じ取れるのが魅力です。

茶道は季節によってしつらえを変えたり、お客様によってお出しするお茶碗やお干菓子を変えるので、言葉を超えたおもてなしがそこにはあると思います。迎え入れる側も迎えられる側もお互いが敬い合って、心を落ち着けて一期一会の時間を過ごす。それは何にも代え難い貴重なひとときだと思います。

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昔からの文化が、現代にも受け継がれている。その要因とは?

過剰な情報に接し、忙しい毎日を送っている現代人にとって、いけばなや茶道をする時は心を無にすることのできる時間だと思います。

鳥のさえずりを聴きながらであるとか、花の優美な香りを嗅いだり、お抹茶の繊細な口当たりを味わったりといった五感をフルに使って、ゆったりとした時間に身を置いて自分の心を解放したり、心身の平穏を保つことに繋がったり。それが現代にも受け入れられている理由ではないでしょうか。

お仕事を通して、特に印象深い出来事は?

100人ぐらいのお客様を前に、茶道のデモンストレーションをしたことがありまして。フランス人はお喋り好きな人が多く、私がフランス語で必死に説明していても話をさえぎって質問をしてきたり、隣の人とお話したりする人もいるのですが、そのデモンストレーションでは私がお点前を始めた瞬間からシーンと静まり返り、最後にお茶をお出しするまで、静けさの中で観客と一体になった感覚を得ることができました。

あの体験は「言語以外でも、コミュニケーションは取れる」と実感した大きな出来事でしたね。

いけばなでいうと、今年初めに私と生徒さんでいけばな展を開催した際、お稽古ではいつも賑やかなフランス人の生徒さんが、自分の作品を生けている時は真剣にお花に向き合って生けていて。日本文化の真骨頂が伝わっていると感じて、感動しました。

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技の修得だけでなく、精神面でも日本文化を理解しているのですね。

いけばな教室の生徒さんは向上心がある方ばかりで、毎回、メモを必死に取って下さるんです。私が話したことを一語一句逃したくないといった感じで。

教室で教えたものを家に帰っても復習して生け直して下さって、「これどうですか」と写真を送って下さるので、そこまで本気になって学んでくださるのはとても嬉しいです。

フランスという国や人々は、他の文化を受け入れる事に柔軟なのでしょうか?

異文化を受け入れようという土台や姿勢を感じることは多いです。特に芸術面ではどん欲に、良いものを吸収しようという雰囲気を感じます。

フランスの街中にギャラリーはたくさんありますし、路上でパフォーマンスする人がいたり。老若男女問わず芸術を享受する、異文化を受け入れる姿勢は素晴らしいなと思います。

ダンス部で照明から大道具まで手掛けたことが、今に役立っている

先ほど新卒で星野リゾートに就職したとおっしゃっていましたが、大学では何を学んだのですか。

中学、高校で創作ダンス部に所属していましたが、全日本高校・大学ダンスフェスティバルという全国大会で自分たちの代の時に入賞できなくて。悶々とした気持ちで過ごしていた時に、大学でもダンスを続けたいと思ったんですね。

ダンス推薦で筑波大に入るダンス部の先輩も多かったので、ダンスの強豪校である筑波大にいこうと。とはいえ私は運動神経がものすごく悪くて。体専にいったら卒業できないと高校の体育の先生に言われたので、興味を持っていた都市社会学、地域社会学が学べる社会・国際学群社会学類に推薦入試で入りました。社会学類では2年生から五十嵐泰正先生のゼミに参加し、上野のアメ横の調査実習に行ったりしました。また4年次に休学してカナダの旅行会社でインターンシップを経験し、帰国後は移民の行動原理や帰属意識について関心が湧き、そもそもなぜ人は国を越えて移動するのかという漠然とした疑問から始まり、卒論ではカナダの韓国人の移民について執筆しました。現在、私自身移民としてフランスに暮らしていますが、大学時代から移民については興味があったので、フランスに辿り着いたのはある意味自然な流れだったのかもしれません。

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どんな入試でしたか?

内申点が基準以上であれば受けられる試験で、小論文と面接がありました。小論文は社会問題のお題について1600字ぐらいでまとめるというもの。面接で中学、高校時代に頑張ったことを聞かれたので、ダンスの事を熱く語った記憶があります。

小さい頃からダンスを習っていたのですか。

小学1年生の時に母がクラシックバレエの教室に連れて行ってくれて、小学校を卒業するまでクラシックバレエをやっていました。中学で創作ダンス部に所属するようになりトウシューズを履かず裸足で踊るダンスに出会いました。高校、大学はその続きという感じです。

ダンスの経験が今につながっていることは?

ダンスはスポーツですが採点競技ではなく、勝ち負けがはっきりわからない競技で、芸術の要素が大きく反映されるスポーツです。音響や舞台装置、振り付けや衣装といった複数の要素が組み合わさって最終的な作品になります。

いけばなは複数の花材を組み合わせて、花器や飾る場所を決めて光の具合を考慮しながら生けるという総合芸術なので、それがダンスとの共通点だと思いますが、大学時代に自分たちで照明や音響、小道具、舞台装置を考えて、表現者と作者の2つの視点からダンスにアプローチできたことが今に役立っていると実感しています。

大学での印象深い経験を教えて下さい。

ダンス部に所属していたことが一番の糧になっていて、学内・学外問わず、色々な場所で多種多様な考えを持った方々と一緒に踊らせてもらったことは貴重な経験でしたし、卒公では体専や芸専の方達と夜中まで練習したり最後には舞台に立って観客の前で踊ったことが深く印象に残っている経験です。色んな人と濃密な時間を共有して、作品を創る事が出来て、そういう経験はこれから先ないだろうと思うと、かけがえのない時間だったと思います。

学外では、3年生の夏休みに思い立ってヨーロッパに一人旅した事が印象に残っていますね。現地発着のツアーバスに申し込んで、オーストラリアやアメリカからの観光客40人ぐらいの中に日本人は私ひとり。約1か月で10か国を周りましたが、「私は井の中の蛙だった」と実感させられるほど、あらゆる場面でカルチャーショックを受けました。

今振り返って、筑波大の良さとは。

8割ぐらいが下宿生でしたから、終電を気にせず熱く語り合えたことが財産だったと思います。考え事や悩み事があったら、すぐに友達の家にピンポンして話を聞いてもらっていました。今フランスにいるから余計に感じるんだと思いますが、物理的に近い距離に友達がいてくれて本当に恵まれていました。

全国から学生が集まっているので、見てきたものや感じてきたもの、価値観が全然違う仲間に囲まれて、自分の固定概念を覆されたのは筑波大に入ったからこそ得られた経験だと思います。

最後に今後のビジョンを教えて下さい。

大きくわけて2つありまして、まずは活動場所を広げて南フランスの色んな町で、いけばなや茶道の活動をしていきたいです。

もうひとつは、今はいけばなを日本文化という切り口から教えたり、展示をしていますが、今後は教育として学校機関で教えられないかとか、芸術という観点からダンサーさんや音楽家の方とコラボして作品を創ったり、スポーツとしていけばなを普及したり、あとはセラピーの一環としていけばなを導入できないかと考えています。

せっかくフランスに住んでいるので、色んなジャンルの方と関わりながら、多角的な観点でいけばなを捉えて発展させられたら面白いなと。今はそういうビジョンを持っています。

実現できたら面白そうですね。

ゆくゆくは、フランスで日本文化の活動をしていることを日本で紹介してもらえるような、相互間の懸け橋のような存在になりたいです。いけばなや茶道などの日本の伝統文化を通して、日仏交流に深く関われたらいいなと思います。

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あなたの“つくばウェイ”とは?

他者との違いを認めた上で、自身を認めること。筑波大の人は他者と自分の違いを認め、他者を受け入れる心の余裕を持っている人が多いような気がします。それは自分の好きなことを自信を持ってやっているからこそできること。それが筑波大のスピリットだと思います。

現役大学生や筑波大を目指す人に一言!

やりたいことを、どんどん周りに公言して下さい。自分の中にとどめてしまうと、周りの人には何がやりたいのか伝わりません。言葉にした時点で物事が進んでいく一歩になると思うので、恥ずかしからずに卑下せずに積極的に周りの人に公言していきましょう。

鴨脚まりなさんが所属する
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プロフィール
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鴨脚まりな(いちょうまりな)
1992年、京都府京都市出身。新卒1年目に配属された熱海の老舗旅館で女将さんの姿に感銘を受け、自身もいけばなを習い始める。その後、フランス人の主人との結婚を機に渡仏。フランスでも日本文化の魅力を伝えたいと、自身でいけばなや茶道の教室を開催する中で、非言語でのコミュニケーションの素晴らしさを表現している。今後も多角的な観点でいけばなや茶道の活動を行いながら、いつかは日本とフランスの架け橋のような存在になれることを志す。
基本情報
出生年:1992年
血液型:A型
出身地:京都府京都市
出身高校:京都女子高校
出身大学:筑波大学
所属団体、肩書き等
  • Association des japonais à Montpellier 会員
  • Association Culture Arts Bien-être d'Antigone (ADRA) 会員
  • 京都市ビジターズホスト 会員
筑波関連
学部:社会・国際学群社会学類
研究室:都市社会学/地域社会学
部活動:ダンス部
住んでいた場所:天久保二丁目
行きつけのお店:ベッカライ・ブローツァイト、ごう家
プライベート
ニックネーム:いちょまり
趣味:花材探し、野良猫観察
特技:速読
尊敬する人:樹木希林、しいたけ先生
年間読書数:100冊
心に残った本:疲れすぎて眠れぬ夜のために(内田樹著)、翼をください(原田マハ著)
心に残った映画:日日是好日
好きなマンガ:俺、つしま
好きなスポーツ:ダンス
好きな食べ物:干し柿
嫌いな食べ物:脂身の多い肉
訪れた国:30か国くらい
大切な習慣:毎朝、日本のラジオを聞く
口癖は?:いろんな人がおるんやな。
座右の銘
  • 諸行無常

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