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東京五輪はメダルを獲りにいく気持ちで臨む

Sportsperson
2017/01/09
インタビュー
  • 64
リオ五輪日本代表 水球ゴールキーパー
棚村 克行
(体育専門学群 2008年入学)

32年ぶりにオリンピック出場を果たした、水球“ポセイドン・ジャパン”のゴールキーパー棚村克行さん。イケメン揃いだとメディアで注目されがちだが、これまで陽の目を浴びなかった競技ならではの苦労や課題も潜む。彼が歩んだこれまでの道のり、そして期待高まる東京オリンピックへの思いを聞いた。

大学で“失敗”という貴重な経験を得た

水球を始めたきっかけを教えて下さい。

僕が通っていた明大中野中学の水球部は、インターハイで10回以上優勝している伝統校なのですが、そこで2歳上の兄が水球をやっていたので兄に憧れて水球を始めました。泳力は普通の人と変わらない程度で100mがやっと泳げるぐらいでしたが、最初から兄のポジションであるキーパーを志望していたので、泳力はそこまで必要なかったという感じです。

当時の成績は?

自分がレギュラーとして出た時の最高順位は、高校3年最後の国体の3位ですね。

水球でどんな目標を持っていましたか?

水球でオリンピックに出場したのはリオが32年ぶりだったぐらいですから、オリンピックに出たいというよりは、有名な選手になりたいとか、目立ちたいという気持ちを持っていたぐらいで。どこを目指すというよりは「兄のような選手になりたい」と思っていました。

どんなお兄さんなのですか?

キーパーとしては全然かなわない存在で、ロンドンオリンピック予選の時は兄がファースト、僕がセカンド(控え)だったんですよ。結局、予選で負けてしまって、兄はその後にケガで引退。今は一線を退いて筑波大の大学院に在籍しています。

棚村さんは、なぜ筑波大に進学しようと?

当時、筑波大の水球部は強かったので、本気で続けるなら筑波大だなと。今所属しているブルボンウォーターポロクラブ柏崎・キャプテンの志水(祐介)さんや保田(賢也)さんが1個上にいましたし。それに、筑波大なら寮生活をしなくて済むというのも大きな理由でした。今思えば、1年生としてこき使われる経験をしておいても良かったかなと思うんですけど、当時はとにかく強制されるのが嫌で(笑)。

大学でも水球を続けたいと思っていた反面、明中から筑波大に進学した先輩に「入学後に何か別のことに興味を持った時、総合大学のほうが選択肢が多いよ」とアドバイスをもらったことも大きかったですね。高校でユースに入っていたので、それでAC入試に挑戦し合格を頂きました。

筑波大に進学していかがでしたか。

筑波はめちゃめちゃ良いところでした。東京だったら、あんなに1か所に全てが集まっているところってないじゃないですか。買い物も全部1地域で済む。僕は好きな雰囲気でしたね。

部活に関しては、水泳部の部長で水泳研究室の教授である高木英樹先生は、基本的に選手の自主性を尊重していたので、毎年キャプテン主導でミーティングをして、ここを目指そうと1年の計画を立てるのが筑波大水球部の伝統でした。

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筑波大に行って良かったと思うことは?

学生主体だったこと、それと一人暮らしだったことで何事も“やらされる”環境じゃなく自分でやらないと成長できないと危機感を覚えたことは、自立の精神を促してくれたと思います。実際、何度も体調管理に失敗しましたが、あの時に“失敗”という貴重な経験を得て、それを乗り越える力を養うことができたと思います。

大学3年では、日本代表に選出されていますね。

めちゃくちゃ嬉しかったですけど、日本や自分自身の実力を思い知らされた経験になりましたね。代表としてワールドリーグという大会のアジア予選に参加しましたが、海外のレベルの高い選手相手だと、「あれ⁉」というぐらいシュートが止められなくて。全く勝負をさせてもえなかったんです。ずいぶん落ち込んで、日本と海外のレベルの差に愕然としました。

その2年後にロンドン五輪が開催されましたが、まだまだオリンピックに出場できる実力ではなかったし、先ほどお話しした通り僕は兄の控えだったので「とにかく兄より上手くならなければ」というのが、当時の僕のモチベーションでした。

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体格差でいうと、海外の選手とどれぐらい違うのでしょう?

平均身長でいうと、リオオリンピックのハンガリー代表チームは190㎝を超えていて、体重は平均100㎏を超えています。日本選手の平均は身長180㎝を切っていますし、体重平均は80㎏以下。それぐらい体格差があるんですよ。

そういったハンデを乗り越えるために、何か意識したことは?

まずは練習に対する意識を変えたこと、そして食生活も変わりました。もともと野菜や果物は好きでよく食べてましたけど、さらに専門的な勉強をして、どうやったらどういう体になるかを調べて鍛えるようになりました。

水球は“水中の格闘技”と言われるぐらいですから、体格差が勝敗に大きく関わる?

昔はそういった要素が強かったですが、4年位前からルールが少しずつ変わってきて、格闘技的な要素が強いとどうしても体が大きな選手が有利になってしまうので、泳ぐことを推奨するようになったんです。例えば、泳いでいる選手を妨害した場合は、素早くファールをとる、だとか。

競泳の成績を見ても分かる通り、日本は泳力が世界トップと言われていますから、そういったルール改定後に日本の水球が勝てるチャンスが少しずつ出てきて、それが僕たちがリオにいけた理由の1つでもあると思います。

なるほど。では話を戻して、大学卒業後の進路について考えていたことは?

昔から、あまり先のことを考えて行動するタイプではないので(笑)、卒業が近づいても「水球をやるか、やらないか」ぐらいのことしか考えてなかったです。すると、ちょうど僕が卒業するタイミングで、筑波大の先輩である青柳(勧)さん(現ブルボンウォーターポロクラブ柏崎ゼネラルマネージャー)が新潟県柏崎に水球のチームを作るということで誘って頂きました。

そしてブルボンウォーターポロクラブ柏崎に所属されたのですね。

いや、実はブルボンはできたばかりのチームで資金面も苦労していましたし、メンバーがそれほど揃っていない事情もあり、岐阜の県体協(体育協会)に所属しながら、月に1、2回柏崎に通うという形で水球を続けていました。仕事をしながら競技に集中するのは難しいと思ったので、県体協には「事務仕事はしません。水球の競技と指導はします」というわがままを聞いて頂いて、2年間は岐阜に拠点を置きました。

このチームならリオにいけるかもしれない

実際のところ、2015年末にリオ出場が決まるまでは注目度も低く、それほど恵まれた環境ではなかったようですね。

今回リオに出場した12カ国の中でプロリーグがないのは日本だけ、しかも、いわゆるクラブチームとして社会人の選手が集まって練習できているのは、日本で唯一ブルボンウォーターポロクラブだけです。日本では、どうしても学生主体のスポーツにとどまっているんですね。

でも水球って、オリンピックに出ている選手の年齢を見て頂ければ分かるように、25歳から28歳ぐらいの選手層が厚い。競泳や陸上と違って、水球は球技なので体力だけが全てではなく技術や戦術で変わってきますから、若さだけじゃなくある程度の経験が必要なんです。

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その世代が練習できる環境が、日本にはあまりないと。

だから大学卒業後に本当にレベルを上げたいと思ったら、海外に行くしかないんです。僕も一昨年までの4年間、夏場は岐阜、冬場はイタリアのセリエA二部リーグでプレーする生活をしていました。

ヨーロッパにいく足がかりになったのは、青柳さんのコネクションです。青柳さんは日本人として初めてヨーロッパのチャンピオンズリーグでプレーして、イタリアのリーグで得点王に輝きました。当時の彼のチームメイトが今ヨーロッパ各国の代表監督をやっているので、そのつながりを頼って僕のような後輩たちが海外へ渡っています。

青柳さんは日本水球界のパイオニアなのですね。

あきらかに一番功績を残した人ですね。国際大会に行くとイタリアのコーチが「(青柳)勧は元気か」って聞いてくるんですよ。そういうのを聞くと、どれぐらいのレベルの選手だったかが分かりますし、同じ日本人として誇りに思います。

リオ出場が確定してから注目されるようになり、環境の変化はありましたか?

クラブチームへのスポンサーの数が増えて、今は200社ぐらいの皆さまに応援して頂いています。うちのチームはブルボンが命名権を持っているだけで、ブルボンのクラブチームではないので、今後もたくさんの方に応援していただけたら僕たち社会人が練習に集中できる環境がもっと整うと思います。

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リオに出場できた理由とは?

オリンピックに出られるのはアジアで1枠しかなく、ここ10年はカザフスタン、中国のどちらかが出場し、日本はいつも2番手か3番手に甘んじていました。それがリオの予選に臨んだ時に、「このチームならいけるかもしれない」と。

その背景にはロンドン前より年間で40日ぐらい多く練習できていたことと、いつもは2回ぐらいだった海外遠征が、リオの前には6、7カ国も回ることができて常にベスト4に入るハンガリーやセルビアの選手がいるチームと対戦できたこと。そして、スペイン代表と合同合宿ができたことが大きかったです。

彼らとの試合で負けはするんですけど、負けた経験がないと「次はこうしよう」というアイディアさえも思い浮かばないですから。皆で色んな戦術を考えて、それを次の試合に活かせたことでオリンピックへの道が拓けたと思います。

具体的にどんな戦術だったのでしょう。

本来、バスケと同じように水球もゴールに一番近い場所を守るディフェンスをしますが、日本はそれを捨てて、世界一の泳力を強みにしてマンツーマンでディフェンスをしようと。守り切れなくて失点してもいいから、相手がミスしたときにオフェンスをとるというやり方に変えたんです。合宿を通して、そのシステムが構築されたのが大きかったですね。

いざオリンピックに出場して、何か変化はありましたか。

この風貌なんで、街中でかなりの人にバレるようになりました(笑)。ヨーロッパでは珍しくないスタイルで、キーパーとして威圧感を出そうと思って始めたんですけど日本では「見た目が奇抜だ」と取り上げて頂いて。こないだイタリアの元チームメイトに「イタリアだと注目されないから、日本は羨ましいな」って言われました(笑)。

LINEのスタンプになってますもんね。では、オリンピックの現地でどんなことを感じましたか。

正直、僕にとって特別なものという感じはしなかったんです。ところが、ヨーロッパの強い選手たちは目の色が違って見えたというか、僕らレベルを相手にシュートを決めて思いきりガッツポーズを決めている姿を見た時、「こんなに必死になるとは、彼らにとってオリンピックのメダルとはそれほど価値があるものなんだ」と。改めてオリンピックの存在の大きさを思い知らされました。

4年後の東京五輪への意識も高くなったのでは?

東京は地元でもあるので、まずは代表として出場すること。そしてリオではベスト8を目指して臨んで世界ランク3位のギリシャ相手に1点差で負けたことを思えば、今度は「メダルを獲りにいくぞ!」という気持ちを持って、リオ以上の成果を出したいと思います。ルール改定にしても日本にチャンスが回ってきていると感じますし、選手の練習環境に関しても、リオ後の3~4か月ですでに良くなってきているんですね。

さらに、ブルボン以外にも社会人の受け皿となるクラブチームができれば、大学卒業後も水球を続けようと思う選手が増えるので、そうすれば選手の層が厚くなり、試合で結果が残せるようになると思います。

最後に。これまでの選手生活を振り返って、何か思うことはありますか?

最近、小学・中学の講演会に招いて頂くことも多くて「苦労したことは何ですか?」と、よく聞かれるんですけど、思い返せば苦労ばかりで良かったことなんてほんの少ししかないなぁと(笑)。でも僕は好きなことをやっているから、それを大変な苦労だとは感じていないんですよね。どれも僕には必要だった苦労だったと、そんな風に今は感じています。

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あなたの“つくばウェイ”とは?

自己責任。

現役大学生や筑波大を目指す人に一言!

筑波大に入るのはもちろんですけど、普通に筑波に住むのはお勧めです! 今まで地元以外にイタリア、セルビア、ハンガリー、岐阜、新潟に住んでますけど、筑波が一番住みやすかったです。

プロフィール
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棚村 克行(たなむらかつゆき)
1989年生まれ、東京都出身。明治大学付属中野高等学校を卒業後、筑波大学体育専門学群に進学。中学から兄の影響で水球を始め、ゴールキーパーとしてキャリアをスタートさせる。高校時代には東京都代表として国体3位の実績を残し、筑波大学進学後は大学3年次に初めて日本代表に選出される。卒業後はブルボンウォーターポロクラブ柏崎に所属。2015年、オリンピック出場をかけたアジア選手権では全勝優勝を果たし、32年ぶりのオリンピック出場権を獲得。リオデジャネイロオリンピックではポセイドンジャパンの一員として活躍し、東京オリンピックに向けてさらなる活躍が期待される。現在、ブルボンウォーターポロクラブ柏崎所属ゴールキーパー。
基本情報
所属:ブルボンウォーターポロクラブ柏崎
役職:ゴールキーパー
出生年:1989年
血液型:AB型
出身地:東京都
出身高校:明治大学付属中野高等学校
筑波関連
学部:体育専門学群
部活動:水泳部
プライベート
趣味:漫画喫茶に行くこと
特技:漫画の速読
好きな食べ物:和食、生姜焼き
座右の銘
  • 目的は手段を正当化する

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