起業家と聞くと、さぞ野心を持って生きてきたのだろうと想像するが、「おとりよせネット」「レシピブログ」「朝時間.jp」といったメディアを立ちげてきた粟飯原さんの場合は、目の前のワクワクすることをひたすら追いかけていたら、いつの間にか経営者になっていた――そんな軽やかさが感じられ、親近感が持てる。彼女のビジネススタイルは、明日の起業家を目指す女性たちのお手本になるかもしれない。
もともと社会学やマーケティングに興味があって、当時は国立大学でマーケティングが学べるのは私の調べた限りでは筑波大学か一橋大学しかありませんでした。その2校を比較し、たまたま小学校の時につくば万博に行った経験から「つくばは未来都市でカッコいい」といったイメージを持っていたので、第一学群の社会学類を目指すことにしました。
正直あまり熱心に勉強をしていなかったんですけど、社会学専攻ゼミに入り、卒業論文では“女性の変身願望”をテーマにクロワッサンという雑誌の研究をしました。また、3年生からは、メディア関係の仕事を目指す有志が集まる勉強会で、リクルートの創業者である江副さんが師と仰ぐ教授のもと、エッセイを書いたりディスカッションをしたりしたことも貴重な経験になりました。現在、女性ユーザーをターゲットにしたメディアの会社を経営していることを思えば、筑波大で学んだことが今につながっていますね。
とにかくアルバイトをたくさんしていました。大学1年の秋に、親の反対を押し切って海外旅行に出かけたら、なんとそれから仕送りが止められて!(笑)。自分で生活しなければいけませんから朝は6時台からホテルの朝食バイト、それから授業に出て、終わったらまたアルバイト。家庭教師、選挙のウグイス嬢、パーティの司会など、時間が空いていれば働いていたので、アルバイト代は初任給より高かったんですよ。あと、驚くほどヘタでしたが、写真のようにテニスサークルにも入っていました。
そうですね。それまでのほほんと生きてきましたが、アルバイトで働いてみたら単純に意外に楽しくて。ケーブルテレビのキャスターをやっていた時にメディアというものに惹かれて、当時はマルチメディア、今はインターネットメディアと言いますが、そちらに進みたいと思ったのは、そのバイトがきっかけです。
そして、マルチメディア人材大募集と謳っていたNTTコミュニケーションズを受けて、採用。配属は志望通り、マルチメディアの部署になりました。
インターネットを含めたマルチメディアという新しいものを使って、どんなサービスを提供すれば良いかといった実験的なプロジェクトを進める中で、特に女性向けのオンラインショッピングをどう世の中に浸透させていけばいいかといったマーケティングを担当していました。そのために女性生活者の方を集めて、実験的にインターネットで野菜を販売しながら利用者の反応を調べるなどしていました。
エンジニアなど理系出身の男性技術者が多い部署だったので、圧倒的に知識も経験も足りない状態でした。その中で女性生活者の視点を持っていることを何か生かせないかなあと漠然と感じていて。でも、どう女性生活者にアプローチすればいいだろう?と。たまたまた勉強会で知り合った方に相談したら、「自分で女性生活者の組織を作ってみれば」とアドバイスされ、入社1年目に私が主宰者となって女性生活者が集まるマーケティングネットワークを作りました。
すると、数百名もの方が集まってくださって、社会人一年目の終わりには、その会から「成功するオンラインショップ」という書籍を出したりシンポジウムを開催したり。ありがたいことに、会社も公式にこの活動を応援してくれて、新入社員の頃から女性生活者のネットワークを持っているということで、意見を聞いてもらいやすい環境に恵まれたことが、とてもラッキーだったと思っています。
怖いもの知らずで、メディアに出ている有名なインターネットのワーカーの女性や起業家の方々にアポイントを取って、ひたすら会いに行く。「これからオンラインショッピングの世界は絶対面白くなるから、ぜひこのネットワークに入っていただきたいんです!」と無我夢中で口説きました。新入社員というと信頼されないと思って、親しくさせていただくまで、ずっと年次は黙っていました(笑)。
退職の理由は、当時会社向けに新サービスとして提案した「よせがきコム」という、ネット上で“寄せ書き”ができるサービスのアイデアが、社内で新規事業として承認されなかったことです。入社数年目の社員が新規事業を勝手に提案しているので当たり前なのですが、当時はそのアイデアをどうしても実現したくて、決裁権を持っているであろう部長を廊下で待ち伏せしてプレゼンしたり、勝手に仲間に頼んでシステムを自腹で作ってきて披露したり、あの手この手で必死でした(笑)。
結果的に、そのサービスは、プライベートで仲間と一緒に会社化したのですが、たまたま、そのサービスの仲間が、私以外全員リクルート勤務だったので「本業も一緒に」という流れで転職することにしました。
リクルート2年目からは、出向先の「All About」というサイトでマーケティングの仕事をしていました。サービスの創業直後だったAll Aboutでは、会社に住んでいるんじゃないかというぐらい仕事しているメンバーが沢山いましたね。終電で退社しても「お先に失礼します」みたいな世界で、土日も皆さん働いていたし。でも仕事がすごく充実していたので、今の時代の働き方感とはまた違っているとは思うんですけれど、毎日が文化祭前夜のようで夢中で楽しくて、苦ではなかったですよ。
NTT時代に、女性生活者ネットワークを立ち上げた業界貢献が認められて選んで頂いたようです。まだ20代半ばのひよっこでしたから自分でも「まさか!?」と。嬉しさよりも、「本当の実力より評価のほうが高いのだから、もっと頑張って早くこの評価に見合うようにならなければ」というプレッシャーのほうが大きくて、気が引き締まりました。
もともと食べ歩きが好きで、趣味で仲間と食べ歩きのブログを立ち上げていたんですね。その時に全国津々浦々のグルメをお取り寄せできればいいな、きっと毎日の生活が楽しくなるなと。しかも上手くいけば地域創生にもつながるのではないかと考えたんです。
当時はインターネットで食品を頼んでもケーキが潰れて届いていました。サービスを改善し、もっと安心して全国の食品が買えるようになればお取り寄せの市場が盛り上がるんじゃないかとの思いで発想しました。ただ、リクルートという大企業で初年度に何億円の利益が出せるのかと言われても、会社が求めるだけの利益には達しないだろうと。それなら自分でサービスを立ち上げようと思ったのが起業のきっかけです。
なかったですね。失敗するかもしれないという怖さよりも、ただただ「やりたい!」といった気持ちが先行していましたから。でも後先のことを考えず、上手くいくことを確信していたのは私だけで、営業職経験も一切なかったので、当時、周りの人には「事業家になるのは向いてないよ」と言われていたんですよ。
いえ、全然。NTT時代に提案したサービスが社内で通っていたら、そのままNTTで働いていたでしょうし、私がその後始めた「おとりよせネット」というサービスがリクルートで実現できていたら、今も会社に残っていたのではないでしょうか。会社やチームがとても好きでした。
まず先に「自分のやりたいサービスを実現すること、世の中に出すこと」が最優先で、それが会社でできないのであれば、自分でやるほうがいいのかな、といった単純な発想でここまで来たのだと思います。
2003年の立ち上げ当時は「お取り寄せ」という言葉自体が世の中に浸透していませんでしたが、2年後の2005年、電通さんがトレンドキーワードとしてお取り寄せという言葉を発表してから一気に波に乗りました。
夢中で突っ走ってきたので苦労したことをあまり覚えていませんが、起業後に気付かされたのは「世の中に不必要な仕事はない」ということです。
会社で自分の仕事だけをやればいい環境では、経理や総務の方がいて、朝出社すればキレイなオフィスで仕事ができる、それが当然だと思っていました。私の場合は、最初は資金がなくて、オフィスを借りることもできなくて。私以外に2人、夜間と週末に参加してくれていた創業メンバーに助けられていたのですが、日中はほとんど1人で作業をしなければいけませんでしたから、FAX一通送るにもキンコーズに行かなければいけないし、請求書に印鑑を押さなければいけないことすら知らなくて、印鑑を押さずにそのまま投函したり。もちろん人事採用の仕組みも知りませんでした。
会社には各所にプロフェショナルな人材がいるからこそ成り立っている、と思い知らされましたね。
実父が、特許を出したり商標登録をするのが好きだったりするアイデアマンで、その姿を見ながら仕事って楽しそうだなとずっと思ってきました。新卒の頃から新規事業に携わってきたので、新しいアイディアを考えることが、求められている役割だという意識が強いですし、単純にアイディアを考えるのがすごく好きなんです。
時には「これだ!」と思い付いたものが、すでに世の中に出回っていてがっかりすることもありますし、10のアイディアのうち半分は誰かがすでにやっているのが常。「私も考えていたのに!」と言い訳をしている暇があったら、その人たちの考え方が進んでいたと潔く諦めて、私なりの切り口を1つ加えて味付けをするなど工夫するようにしています。
女性が7割、約30人です。「朝時間.jp」編集部では筑波大のインターン生も活躍しているんですよ。記事を書いてもらったり、編集の分析をしてもらったり。この記事を読んだ筑波大生で編集業務に興味がある方は、ぜひ長期インターンとしてお手伝いしてもらいたいですね。
「朝時間.jp」「レシピブログ」のようなライフスタイルメディアを運営していて感じるのは、日々ユーザーさんから「自分のレシピが取り上げられて嬉しいです」「料理のブログを更新していたら本が出版できました」と嬉しいコメントが頂けたり、「おとりよせネット」であれば、お取り寄せ先として紹介したお店の売り上げが上がったと喜んで頂けることですね。
大きな出来事よりも、こういった小さな幸せが毎日得られるのは何事にも代えがたいです。
筑波にいたおかげで、良い意味で世間知らずでいられたことです。社会人になると周りと自分を比較したり、あまりにも情報が多くて決断に迷ったり、自分に自信が持てなくなることもありますが、筑波にいたおかげで情報過多にならず、周囲に振り回されず、自分が感じるまま素直に行動できる力がついたと思います。
これは就活の時に作ったモットーですが、「地に足の着いたミーハーでいること」。メディアの仕事をする上では世の中の新しい動きに敏感でいなければいけませんし、かつ心の底から私が面白いと思えるものをサービスとして提供することが大事。
ミーハーというと、あまり良くない言葉として使われることもありますが、単純に流行を追うだけじゃなく「面白いと思ったらトライする」、つまりそこに行動が伴うという意味で、地に足の着いたミーハーでいたいと思っています。
それともう1つ、長く続けていくために安定した気持ちでいることが大事です。起業から10年続く会社は5%もないと言われていますが、「才能とは、情熱や努力を継続できる力」と将棋の羽生善治さんが言われているように、上手くいかなくても、壁にぶつかっても「続けていける」ことのほうが才能。メンバーに恵まれたからこそ今日までやってこれたと思いますが、私もそういった信念を持って、とにかく何があっても「もう駄目」と折れてしまわないこと。日常で言えば、カッとならないとか、落ち込んだ気分を伝搬させないとか、周囲に対しての気持ちや心を安定させることを心がけています。
これをやるとストレスが消えるというジンクスを作ること、例えば私の場合はプリンかシュークリームを食べれば何とかなる!と思いこむこと(笑)
不安や後悔といった、今この場所と関係ないことを考えている時に気持ちが引きずられてしまうので、映画を観たり、小説やマンガを読むことで別の世界に没頭したり、1杯のコーヒーを飲んで気持ちを切り替えてリフレッシュしています。
「皆さんに小さな幸せを提供できるメディアを作ろう」と頑張ってきましたが、最近はウェブにとどまらず、もっとリアルなことをやっていこうと。2012年から運営している外苑前アイランドキッチンスタジオでは食イベントや料理教室、朝活イベントを開催していますし、将来的はショップやカフェもプロデュースするのが目標ですね。
足りないことを楽しむ。
楽しいこと、興味があることに、素直にミーハーにチャレンジして下さい! 会いたい人に会って、やってみたいことをやるなど時間に余裕のある大学時代にできることを充実させて欲しいです。
所属: | アイランド株式会社 |
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役職: | 代表取締役 |
出生年: | 1974年 |
血液型: | O型 |
出身地: | 大阪府豊中市 |
出身高校: | 大阪府立北野高校 |
学部: | 第一学群社会学類 |
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研究室: | 社会学専攻ゼミ |
部活動: | テニスサークル「FOREST」 |
住んでいた場所: | 春日4丁目 |
行きつけのお店: | AKUAKU |
ニックネーム: | りささん |
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趣味: | 読書、美味しいお店めぐり |
特技: | 鈍感力? |
年間読書数: | 50~60冊 |
心に残った本: | 赤毛のアン(モンゴメリ著) |
心に残った映画: | プラダを着た悪魔 |
好きな食べ物: | 麻婆豆腐 |
訪れた国: | 8カ国ぐらい |
大切な習慣: | 早寝早起き |
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