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余白だらけの宇宙産業というキャンバスに、好きなように絵を描く

Entrepreneur
2020/08/31
インタビュー
  • 153
株式会社ワープスペース CEO 
常間地 悟
(国際総合学類・2007年入学)

2001年、多感だった中学時代に、アメリカ・ニューヨークで起こった同時多発テロに身の震える思いがした。世界に目を向け、学びを得るうちに自身の目で見て体感しようという思いが湧き起こり、国際協力や国際関係のボランティアに参加。その延長線上に筑波大国際総合学類への進学、そして起業がある。現在は筑波発ベンチャー企業でCEOを務め、宇宙という壮大なフィールドで、自らの夢、そして人間社会の進歩に貢献しようと尽力している。

9.11がきっかけで世界に目を向け始めた

お仕事について教えて頂けますか?

まず例えとしてインターネットの話をしますが、昔は電話回線を使ったダイアルアップ通信で、通信速度が非常に遅く使いづらいものでした。それが、ISDN、ADSL、そして光通信へと進歩するにつれ通信速度がどんどん速くなり、私たちが暮らしている地上でのインターネットのあり方が大きく変わりました。

一方、宇宙はというと、まだまだ通信システムが遅れていて非効率なので、地上と同じことを宇宙で起こすために、投資家の方やクラウドファンディングなどから資金を調達し、宇宙に新しい光通信ネットワークのインフラを作ろうとしているのが我々の会社です。

壮大な事業ですね。

宇宙産業は皆さんの身近な存在ではないかもしれませんが、今年2月に初めて開催した弊社のコンファレンスイベントには、つくばに100名を超える宇宙産業やスタートアップ関係者にご来場頂くなど、今では日本の宇宙新産業のニューウェーブの一つとして少しずつ認知を得られています。
アドバイザー陣には、ソニーの元会長の出井伸之さんやタリーズジャパン創業者の松田公太さん、Forbes Japan副編集者の谷本有香さんに加え、JAXAの元役員の方が名を連ねており、幅広い方々から共感を得られています。

地上と同じ光通信が宇宙でできるようになることで、どんな利点があるのですか。

地上に携帯電話の基地局があるおかげでどこにいても通信ができるように、宇宙のどこにいても高速通信ができる中継基地局の役割を持つ人工衛星を打ち上げれば、宇宙から撮影した地球の画像をいつでも地球に配信することができます。

例えば、人工衛星から撮られた精度の高い画像が、もっと高頻度かつ大量に活用できる環境が整うと物流の業界が飛躍的に発展する可能性があります。また、金融業界が、今後発展していく業界に対してより根拠を持って投資や融資できることにつながる。延いては経済発展を加速させることに寄与できるわけです。

他にも、農業や漁業といった一次産業の効率化にも使われようとしている。農業だとより狭い区画ごとの気象情報が把握できればそれを収穫高と照らして、これまで勘に頼ってきた農業をデータ化できるし、アンテナを建てられずにデータを集めにくかった海上の情報を宇宙から収集可能にし、その情報を漁業に活用できるようになる。つまり、宇宙の通信環境が整うことで、私たち先進国のみならず、途上国の人々の生活もより豊かになるということです。

なるほど。

さらには災害の予測や、災害が起こった場合の被害状況も宇宙からの観測であれば瞬時に把握することができますから、災害後の対応、例えば、どこでどういう被害が起こっているから、こういう保険が適応されるといった判断が即座にとれるなど、金銭的、金融的なことも含めて大きな変革が起こると思います。

そもそも宇宙産業に興味を持ったきっかけは?

2015年、筑波大の学生や教員、卒業生の夢や企画を実現することに特化したインキュベーション団体“筑波フューチャー・ファンディング”の立ち上げに関わり、ベンチャー育成ミッションの支援先の1つとして宇宙産業に出会いました。

支援する立場として勉強してみると、それまでに関わっていたインターネットやデータサイエンス、メディアの産業と比べて、宇宙産業はまだキャンバスの余白がたくさんあるというか。しこたま好きなように絵が描ける、伸びしろがあると感じたんです。

それに、僕の起業家、経営者としてのビジネスの考え方、スタートアップの考え方などそれまでに培ったものが有効に使えると思ったんです。だから「ここで戦おう」と。

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そこに至るまでの経緯を掘り下げたいのですが、2007年、筑波大の国際総合学類に入った理由を教えて頂けますか。

中学2年の時、9.11の同時多発テロに衝撃を受けました。それが初めて世界に触れた機会であり、興味を持つようになったきっかけです。それから半年ぐらいはメディアも皆、騒いでいましたが、1年が経つと話題にも上がらない。それが不思議だったのと、中東怖い、イスラム怖いといったぼんやりした雰囲気だけが残って、「それは果たして本当なのだろうか」と疑問を抱いたんですね。

そこで、イスラム教の聖書、コーランを読むことにしたんです。読んでみたら、僕がこれまで人やメディアから伝え聞いたこと、常識だと言われていることは本質ではないと気付いて。

そういった経験がきっかけで、もっと世界の本質を知るために、高校では国際協力や国際関係のボランティア活動をしたり、プロジェクトを立ち上げ、その延長で筑波大の国際を目指すことにしました。

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専攻は法律とのことですが?

法律といっても、弁護士になりたい人もいれば研究をしたい人もいるなど幅広くて。僕の場合はビジネスや社会を学ぶために法律を学びました。

なぜなら、ビジネスをはじめとする社会のあり方を形作っているのは法律だと思ったからです。国そのものが法律から成り立っているし、日常の自分たちの行動は一定程度法律に縛られている。文化と呼ばれるものも、その国の人たちの考えに影響を及ぼしますが、法律もまた違うベクトルで何から何まで影響を及ぼすものだと思ったので、ビジネスをやる上で法律を学んでおこうと。そんな思いで法律を学びました。

大学4年間を通じて、どんなことを感じましたか。

座学が苦手で、動くことや実際に見ることが好きなので、法律がビジネスの中でどう運用されているのかを知るために筑波大発ベンチャーにインターンとして入りました。そこでビジネスの面白さを知り、自分で起業することにしました。

就職活動をして、どこかの会社に入ることは考えなかったのですか?

どうせやるんだったら、会社という組織のなかでやるよりは、全ての責任を自分で引き受けたほうがラクだと。そう思ったのはインターンの経験からもそうですし、高校という組織にある意味守られ、高校生アドバンテージのおかげで順調だった高校時代に比べて、大学ではそういったプレミアムが無くなり、結構ボロボロになってしまったことへの反骨心もあったかもしれません。

ともかく、うまくいかない出来事も含めて全部自分で責任をとろうと覚悟を決め、起業することにしました。

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起業することに不安や怖さは全くなかったですか?

起業をするタイミングよりも、起業後にビジネスを進めていく上で色々つらいことが起こり、落ち込んだ時のダメージのほうが大きかったですね。大口の案件を契約した後に取引先が蒸発し、その案件のために社員を増やしていた立場として、責任を取って死んでしまおうかと思ったこともあります。

そこで持ちこたえた背景には何が?

中学・高校時代にボランティアで途上国の人たちと触れたことが原体験にあったからです。次の瞬間に撃たれて死ぬかもしれない人や、家計の中に1ドルもない人などと比べれば、日本にいる限り、ある意味ここは安住の地だし、大抵なことでは死にはしない、日本人として日本に生まれた時点で、すでに彼らより十二分に恵まれているのに途中であきらめるのは情けないなと。

そんな気持ちが根底にあるからこそ、持ちこたえることができたのだと思います。

思いつきでも、言ってみることで何かが変わる

起業家としてのモットーを教えて下さい。

初めて起業した当初から一貫してこだわっているのは、「自分の思い通りにやろう」ということ。もちろん全てが自分の思い通りになることはないんですけど、ただ、自分で何かを開拓していこうという思いはいつも強く持っています。

思い通りにやりたいと思っても、なかなか行動に移せないものですが。

僕は、単純に我が強いんだと思います。最初のインターン先にも色々ご迷惑をおかけしたので、数年前に謝りにいかせていただきました(笑)。ようやくここ数年で丸くなったといいますか、周りのことを考えつつ、我を通す技を身につけました。

我を通す部分と、周りの意見を受け入れる、その両方のバランスがとれているのですね。

そうですね。僕には特殊能力があるわけではない、例えばプログラミングができるわけじゃないし、宇宙の専門家でもないし、デザインもできません。何をやるにしても誰かの助けが必要ですから目的のために他人に任せたり、僕の手から切り離すことを少しずつ身につけたというか。

ただその前提に、我を出さないと何も起こらないというのは常に意識しています。

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座右の銘を教えて下さい。

「言ってみることが大事。やってみることが大事。出来なくてもやり続けることが大事」。これは、これまでの経験の中から自然と浮かんできた言葉です。

先ほどお話ししたように、昔は思ったことをすぐに口に出して我を通すタイプだったので、上手くいかなかったことや失敗のほうが多かったんですね。ただ、その時の失敗が確実に、今の自分や今の自分が達成できていることにつながっている感覚があって。

思いついたら言ってみる、そこで何かが変わるかもしれないと経験の中から実感しています。

この記事を読んでいる学生に響く言葉だと思います。

皆、こうすれば面白くなる、こういうのやりたい!って考えを持っているはずなのに、99%の人が言葉に発しないまま人生を終えてしまう。それはもったいないですから、口を閉ざしている人は口を開いて欲しいし、口を開くことに対するプレッシャーから解放されて欲しいですね。

頭の中で思っているだけじゃ何も始まらないっていうのは確実なので、まず口に出して言うことがファーストステップだと思います。

そして「やり続けることが大事」とも。

起業家の道を歩み始めて10年が経ちますが、継続してきたからこそ今の自分がある。ありふれた言葉ですが、やはり“継続することが成功への近道”というところに行きつきます。

経営者として人間として、目指すところは?

日本は安住の地だと感じる一方で、厳密にいえば僕だって明日死ぬかもしれません。通り魔にあったり交通事故に遭ったり。そういった意味で、いつ死んでもいいようにと言ったら変ですけど、僕が死んだ後、数年、出来れば10年ぐらいは僕が作り上げたことや携わったことが世に残り、生きている人たちのために役に立つことを1つでも多く生み出しておきたいという思いがあります。

生きているうちに社会に貢献することはもちろん大事ですが、もし僕がいなくなったとしてもシステムとして残り続けて、人類社会にプラスのインパクトを与えるものを残していきたい。そんな気持ちでビジネスと向き合っています。

生きている間の人生だけでなく、その後のことにも思いを巡らせながらお仕事をしているのですね。

自分が生きてないとできないような社会貢献では、あまり意味がないというか。僕の存在しないところでも人間社会に貢献できるものを作っていきたいと思います。

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あなたの“つくばウェイ”とは?

「もったいないを、なんとかしよう」。能力を最大限に生かせていない状況を見るのが歯がゆくて、つくばは十分なポテンシャルがありながらも、実力を存分に発揮できているとは言えません。「つくばは、もったいない、もっとできる」――そういった気持ちで尽力していきたいです。

現役大学生や筑波大を目指す人に一言!

チャレンジしきれてない人たちに伝えたいこと。それは失敗や人に非難されることを恐れず、「やりたいことを口に出せば何かが起こるかもしれない」。そんな風に考えてみてはどうでしょうか。

常間地 悟さんが所属する
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プロフィール
tsunemachiprofile
常間地 悟(つねまち さとる)
株式会社ワープスペース取締役兼最高経営責任者(CEO)。 筑波大学在学中に起業家としての道を歩み始め、また、起業家やスタートアップ企業を支援するインキュベーターとしても活躍の場を広げる経営者。 現在では、全く所縁の無い立場から、「宇宙」を扱う同社の経営を預かり、「宇宙の光通信ブロードバンドネットワークを2022年までに実現する」ために精力的に事業活動を行う。 分野や業界に縛られず、自身の使命感とビジネスのポテンシャルを掛け合わせて、そこにどれだけの可能性を感じるかどうかを原動力に生きる。 彼が発する言葉には、起業家、経営者としての実体験を背景に感じ、非常に説得力がある。
基本情報
所属:株式会社ワープスペース
役職:CEO
出生年:1988年
血液型:O型
出身地:神奈川県茅ケ崎市
出身高校:神奈川県立神奈川総合高校
出身大学:筑波大学国際総合学類
出身大学院:筑波大学人文社会科学研究科法学専攻
所属団体、肩書き等
  • 一般社団法人筑波フューチャーファンディング 理事
筑波関連
学部:国際総合学類 2007年入学
研究室:国際法、民事訴訟法(専門:国際仲裁)
住んでいた場所:一の矢→春4→天3→天4→東新井→篠崎(現在)
行きつけのお店:昔:龍郎、活龍、北方園 今:いちむら食堂、丸長、大将別館
プライベート
趣味:ダイビング、水中写真
尊敬する人:秋山真之
年間読書数:最近はあまり本を読みません
心に残った本:銃・病原菌・鉄(ジャレド・ダイヤモンド著)、坂の上の雲(司馬遼太郎著)
心に残った映画:STAR WARS、風の谷のナウシカ
好きなマンガ:鋼の錬金術師、キングダム、ワンピース、ハンターハンター、攻殻機動隊(アニメ)
好きなスポーツ:ダイビング、テニス、ゴルフ、野球
好きな食べ物:焼肉、ジンギスカン、ラーメン、刺身、寿司
嫌いな食べ物:きな粉、おから
訪れた国:17か国
大切な習慣:毎朝の大空に向かった深呼吸。自転車通勤(晴れの日限定)。ストレッチ。
座右の銘
  • 「無知の知」、「言ってみることが大事。やってみることが大事。出来なくてもやり続けることが大事。」

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