高校までどっぷりと理系コースに浸っていたが、ある新聞記事をきっかけに芸術の道へ。芸術専門学群では、自らの専門以外の学生と触れ合うことで見識を広げた。そこで出会った先輩の勧めがきっかけで、CG、そしてゲームの世界に進み、現在、生業とする“AI”にのめり込むことに。約20年前からAIをけん引してきたスペシャリストが語る、AIの魅力、未来とは?
高校までずっと数学と理科が得意で、当たり前のように理系のコースを選んでいましたが、高校3年の時、「人が敷いたレールを歩くのは若者らしくない」という新聞記事を読んで、「芸術の道に進もう」と思い立ちました。
私が住んでいた岐阜県の田舎町では、大学の情報がそれほど入らなかったので「筑波大なら東京に近そうだから良いんじゃないか」と。そんな理由で筑波大の芸術専門学群を目指すようになりました。
理科系以外に何が得意か考えてみた所、そういえば小学校の写生大会でいつも入選していたなぁと。「じゃあ芸術だ」と、それぐらいのもんです。
他の学生はそうだと思います。でも私は美術学校にも予備校にも通っていません。デッサンの実技試験まで、デッサンは2枚しか描いたことがなかったんですよ。
美術といえば油絵しか思い浮かばなかったので、最初は油絵のコースに進みましたが、色々学んでいくうちにメディアアートだとかデザインだとか、もっと楽しい分野があることが分かって。2年からはそちらのほうに進みました。
最終的には視覚伝達デザインが専門でしたが、筑波大には総合造形というコースがあって、有名な人だと、株式会社ポケモン代表取締役社長の石原恒和さんは2学年上の先輩で、『100かいだてのいえ』の著者である絵本作家の岩井俊雄さんは2つか3つ下。彼らが集まる部屋に入り浸っていましたね。
2年が過ぎた頃、「美術は人に教えてもらうもんじゃない」ということに気付いて、あまり授業に出なくなってしまいました。何が大事かというと、感性を磨くこと。それは大学で教わるものではないと思ってしまって。
土浦の雀荘に入り浸っていましたね(笑)。単位も足りなかったので、学校を辞めるつもりでしたけど、5年目に先生方から「君は可能性があるから残りなさい」と説得されて、残ることに。結局、6年かけて卒業しました。
就職活動を全然していなかったので、卒業後は公官庁の雑誌を一冊レイアウトするアルバイトを得て、それを一週間ぐらいで仕上げてしまうと、あとは映画を観に行く。そんな生活を10年弱続けていました。
大学の先輩である株式会社ポケモンの社長の石原恒和さんに、グラフィックに強いアミーガというイギリスのコンピューターを勧められ、それでCGを作るようになったんですね。
そこからテレビ局の依頼を受けて子供向け番組『ウゴウゴルーガ』のCG制作に参加することになり、テレビ局相手だとフリーランスでは何かと契約が面倒なので、法人化しました。
『ウゴウゴルーガ』がプレイステーション開発者の目に留まり、1994年、何の知識もないままゲーム業界に飛び込みました。ちょうどプレイステーション立ち上げの時期でした。
代表的なものは、1997年に発売された『がんばれ森川君2号』というゲームですね。ゲーム雑誌か何かで“AI(人工知能)”という言葉を見つけて、「これからはAIだ!」と。AIでキャラクターが動くゲームの企画をソニー・コンピュータエンタテインメントさんに出して、半年ぐらいはひたすらAIを勉強したものが、このゲームに搭載されています。
半年も制作が進まず、AIの勉強だけをするなんて今のご時世では許されないでしょうが、ソニー・コンピュータエンタテインメントさんが太っ腹で認めて下さって。自由なポジションに置かれたことで、のびのびとAIを勉強することができました。
AIを組み込めば組み込むほど、キャラクターが生き物っぽく動いてくれることです。当時は新しい試みでしたから楽しくて仕方ありませんでしたし、もちろん苦労をあげればキリがありませんが、どんどんAIに面白さにのめり込んでいきました。
リリースしても全く評価されなくて「なんで、この面白さが分からないんだろう」「AIをゲームに使うことのポテンシャルを何で分かってくれないんだろう」と。
特に『アストロノーカ』というゲームは、AIという部分を除いてもちゃんとゲームとして成り立っている、バランスのとれたゲームだと自負していたのに評価されず。がっかりした記憶があります。
世間がなんと言おうが、会社が作らせてくれるなら作っちゃえと。クリエイターはそのへんのタフさがないとやっていけないと思いますね。時に、自分の制作のモチベーションと世間の評価を切り離して考えることが大切だと思います。
ほれ、みたことかと(笑)。私にしてみたら「20年後に今頃?」という感じですけど、2012年ぐらいにAIの新しいモデルが出て、ようやく実用に足るAIになったので、今、ブームが起こったのは必然的だったと思います。
これまでスマホアプリも入れると50ぐらいのゲームを手掛けましたから、ゲームを丸ごと作ることに対してモチベーションが下がってしまって。じゃあこの先どうしようかと思った時に、「これからはゲームにAIを使いたい人をアシストしたり、使いこなせる人を育てていこう」と。
それともう一点、20年前に比べてAIの発展のスピードがものすごく速いので、新しい技術を常に把握することに専念しつつ、最新情報をゲーム会社に提供しようと思いました。
それがゲーム業界、エンターテイメント業界に特化したAI専門会社を立ち上げた理由です。
その通りです。よく“ソムリエ”と言っているんですけど、お客さんが食べる料理があって、それに合うワインを聞かれたら、膨大の知識の中から料理に合うワインを選び出す感覚と似ています。
具体的に言うと、このキャラクターの動きをより生き物っぽく見せたいという依頼があれば、その内容、ゲームが実装されるハードのスペックに合うものならこのAIが良いのではないか、と。そういった情報を提供しています。
よくあるのが、ゲームの中でキャラクターが歩いていくルートを設計したり、敵がいたら攻撃するのか、逃げるかなど。そういった行動戦略をキャラクター自身に考えさせるのが1つと、もう1つは、最適な敵やアイテムのパラメータを自動で調整すること。
強さやヒットポイントなどのパラメータを人間が作ると、敵が数千種類となった場合にバランスがうまくとれなくなってくるので、そういったことをAIがやってくれます。
そうです。特にソーシャルゲームが出てからは、2週間に1回は新しいキャラクターやアイテムをリリースする運営型サービスが多いので、膨大な作業になるんですね。人間ができる限界にきているので、それをAIが担っています。
世の中が便利になるのが一番。もっと遠くの目標としては、「人の友達になってくれる」ことを探求していきたいです。
AIはコンピューターに続く便利な道具ですが、コンピューターと違うのは、AIは人と本当の意味で心を通じ合えるような心を持つ可能性があります。「AIで人の心は扱えるか」。すぐに実現できる話ではないですけど、その可能性に興味があります。
AIが、自分のことをよく知ってくれている自分だけの友達になることです。実際の友達相手だと気を遣ってしまうような、夜中に話を聞いて欲しいだとか、ちょっとした話を誰かにしたいといったシチュエーションで、AIが話し相手になってくれたり。
そういったエンターテイメントの要素もそうですし、例えば抑うつ状態を軽減することにも役立つのではないかと思います。
テストはしていますが、人が相手に抱く感情についてなど、もっと人間サイドのことを研究しなければいけません。
AIのような専門的なことを仕事にしていると、どうしても視野が狭くなってしまって、ダイナミックな使い方ができなくなってくるので、違う分野に興味を持つことが大切。それは筑波大で培ったと思います。
一番大きかったのは、他学の授業を受けられること、これは筑波大ならではの魅力ですよね。僕の場合、興味を持ったⅡ学の心理学や生物学の授業を受けたり、先ほどお話した総合造形の学生が集まる部屋に入り浸ったことで、大いに刺激を受けました。
専門分野以外にも視野を広げることの大切さ――これは、筑波大で学んだことです。
体育の施設を何も使わなかったこと、あれはもったいなかったですね。今になって分かったことですが、頭と体は完全に分けられない、必ず全ての感情は身体を伴うので、もっと自分の身体に対して興味を持つべきだったと思います。
まず敷地が膨大ですからね。一度も足を踏み込んだことのないサッカー場のほうにも、行ってみれば良かったなと思います。
現在、AIエンジニアを募集しています。私が求めている人材は、ゲームを中心としたエンターテイメントのAIに興味のある人。そういったジャンルに面白さを見出している人がいれば、ぜひ連絡をしてきて欲しいですね。
縦断的に色んな所に行けるので、人とのコミュニケーションが豊かになりました。自分とは違うカテゴリーの人と一緒に授業を受けたりすることで、自分の多様性ができていったかなと。それが良いことだ、楽しいことだという原体験は、社会に出て役立ったと思います。
好奇心の赴くままに動いて欲しいです。僕の場合、将来を考える高校時代にまさか自分がゲーム、そしてAIのほうに進むとは思っていませんでしたが、大学で色んな人と出会ったことで180°違う世界に行き着きました。自分の心に忠実に、興味のあるものを突き止めて欲しいと思います。
所属: | モリカトロン株式会社 |
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役職: | 取締役 |
出生年: | 1959年 |
出身地: | 岐阜県 |
出身高校: | 本巣高校 |
出身大学: | 筑波大学 |
学部: | 芸術専門学群 |
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年間読書数: | 50冊 |
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好きなスポーツ: | 格闘技全般 |
好きな食べ物: | ラーメン |
嫌いな食べ物: | 甘い物 |
訪れた国: | 10数カ国 |
大切な習慣: | 「飽きる」に正直にする |
口癖は?: | なるようになる |
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