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豊かな社会を実現すべく、人と人とをつなぐ

Entrepreneur
2016/10/13
インタビュー
  • 50
株式会社レスポンシブコンサルティング 代表取締役
種村 文孝
(人間学類 2003年入学)

大学卒業目前に内定が白紙になるという挫折を通して、考え方が大きく変わった。自分1人でもやっていける実力を身に付けたい、自分の力で生きる人を育てたいとの意識が芽生え、現在は京都大学大学院に通いながらコンサルティング会社を経営。人生何が起こるかわからないからこそ、あえてチャレンジングな生き方を選んだ彼の人生を追う。

卒業目前、内定が白紙に

筑波大を目指したきっかけを教えて下さい。

以前から人と向き合うことが好きで「心理学を学びたい。悩んでる人、困っている人の支えになりたい」と思っていて、色々リサ―チしてみると筑波大がいいのではないかと。僕が入学した第二学群人間学類では、教育と心理、心身障害学の3つが学べたので、心理カウンセラーや教師という仕事に興味があった僕にとっては最適な環境だったと思います。

印象に残っている授業はありますか?

心理学の授業は、世間で広まっているイメージの心理学とは違っていて、動物の実験の話や統計を扱ったりしましたね。心理学のある先生がおっしゃっていたことですが、「心理学を学ぶより、映画をたくさん観たほうが人間について詳しくなれる」というのは印象的でした。

入学したばかりで、先生にそう言われて衝撃を受けましたけど、そうだろうなと(笑)人と話したり、人と接したり、映画を観たりなんだろうなと。結果としては同じ関心を持って入学した友人と接する中で、心理や教育について色んな意見を聞くことが大きな経験になったと思います。

学業と並行して「社会福祉研究会」に在籍していたそうですが。

昔、児童相談所に足を運んだ際、カウンセラーとして働いている人に接して「素敵な仕事だな」と思ったのがきっかけで、心理学に興味をもちました。人間学類の多くの学生が参加していて、200人ぐらいが在籍しているサークルなんですが、その活動には力を入れていましたね。児童養護施設で、親と一緒に暮らせない子供たちに勉強を教える中で、子供たちが置かれている状況を知ったり、悩みの相談に乗ってあげたり。そんな活動をしていました。

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印象深い思い出はありますか?

やはり、サークル仲間と真剣に語り合った時間が一番思い出深いですね。児童養護施設で子供たちをサポートしてどれだけ役に立つんだろうとか、ボランティアの活動だけれども休みがちになると施設や子どもたちに迷惑がかかるとか、いろんな考え方のメンバーがいたので話し合う機会も多くて。

ボランティアサークルを運営していく大変さを感じましたけど、大前提として人を大切にする人が筑波大生には多いので、お互いの話をよく聞きながら、決して一方通行ではない話し合いができたことで、実るものも多かったです。

プライベートで印象に残っていることは?

旅行ですかね。大学生らしいことをしようと1年目に青春18きっぷで旅行してから、知らないところを訪れる面白さを知って、車で南は山口、北は青森まで日本列島を1周したり。初めての海外旅行先であるドバイとエジプトは、ある意味で興味深かったですね。ドバイには六本木ヒルズみたいな高層ビルがバンバン建っているのに、エジプトでは裏路地に入ると「お金ちょうだい」と、すがりついてくる子供たちがいる。世界には色んな場所があるのだなとカルチャーショックを受けました。

進路については、どう考えていましたか。

心理カウンセラーや教師に関心を持っていましたが、就職活動をする中で企業で働くのもおもしろそうだなと思い、3年の3月に中小のITコンサルティング会社に内定をもらっていました。だけど、それが4年の2月、卒業目前に内定が白紙になってしまったんです。ある日突然、人事部長に呼び出されて「会社が分裂することになったから、今後どうなるか分からない」と。就職活動の時に相談に乗ってもらっていた社員の方もみんな辞めていて……困りましたね。

その時まで僕の人生はずっと、とんとん拍子できていました。行きたい大学に入れて、行きたい会社に内定がもらえて。でも内定が白紙になった瞬間、今まで順調に走ってきたレールから外れたような感覚を抱いてショックを受けた反面、なぜか解放された気分にもなったんです。

それは、なぜでしょう?

現実を思い知らされたというか、自分1人でもやっていけるような実力を身に付けないと、突然の難題が降りかかった時に乗り越えられないなと。人生はいつどうなるか分からないから、もっと自分を磨いて、自分のやりたいように生きていける道を切り拓いていこうと、どこか前向きに考えていた自分もいました。

そのような気付きは、種村さんをどこに向かわせたのでしょう?

まずは就職活動をやり直すために就職留年することにして、それと並行して国家公務員Ⅰ種の試験を受けることにしました。経済産業省や厚生労働省で経済政策や労働政策に関わってみたいなと。内定白紙になって、経済や労働に問題意識ができましたから。ところが内定が白紙になった2月から、国家公務員の筆記試験は4月までは2か月しか勉強する時間がない。でも挑戦してみようと決意して、週の半分は就活、週の半分はミスドにこもって12時間コーヒーをお代わりしながら猛勉強しました。

なんと、合格されています。

自分でも信じられませんでした(笑)。

ところが2度目の就職活動の末、2008年に人材派遣会社である株式会社リクルートスタッフィングに就職されていますね。

国家公務員の仕事も魅力的でしたが、内定が白紙になった時に痛感した「自分の力で切り拓く力」を身に付けるには、若い時から仕事を任される環境のほうがいいのではないかと思って、“3年で独立”という目標を掲げてリクルートに行くことを決めました。

なぜ3年で独立しようと?

ずっと、1つの会社で上までいけるような働き方を考えていたんですけど、やはり内定が白紙になったことで意識が変わって、「実力がついたら独立しよう」と考えるようになりました。ところが、いざ会社に入ってみると、社会人として当たり前のことが全然できていないことを痛感させられ、3年で独立どころじゃなかったんですけどね(笑)。

結果的に5年在職し、2013年に退社されています。

筑波大の後輩の勧めで岸英光さんのコーチング講座に参加した時、パラダイムという自分が持っている価値観の枠や行動パターンについて教えて頂いて。「人間はわざわざ結果が出ないような行動をとることがある」ことを知ったのと、夢の諦め方の1つとして「今の環境で良い。ここが居心地いい」とコンフォートゾーンに居続けることを選んでしまう人間の特性について学んだことで、背中を押されました。

それで退社を決断したのですね。

最終的には今の妻のひと言が決め手でした。当時、筑波大時代から数えて7~8年交際していて、大学卒業後、盛岡で働いていた彼女と遠距離恋愛をしていたんですね。すると東日本震災がおこって、彼女としばらく連絡が取れなくなって。いつどうなるか分からないから結婚しようと話したら、「前に、会社を辞めて自分の力でやりたいと言ってたのはどうするの?」と彼女に言われて。「結婚するなら安定が一番だから、このまま会社に残る」と言ったら、「夢を追わないあなたとは結婚できない」と言われたんです。

そこまで言うんだったらと退社を決意。これまでの経験を活かして大人がもっと働き方を考えられるような場を作ろう、そのためにはもう一度学び直そうとの思いで京都大学の大学院に進学することにしました。

クライアント以上に目標達成を信じる

現在、大学院での専攻は?

教育学の中の生涯教育、成人教育です。大人に教えるにはどうしたらいいか、大人はどう学ぶのかを研究していて、専門は弁護士や裁判官といった法律専門職の育成なのですが、彼らが市民との関係性を築くためにどんな存在であるべきか、どんな教育をしたらいいかということをテーマにしています。

例えば弁護士はプロとしての伝統や権威があって成り立っていますが、普通の人からすると敷居が高いですよね。今は社会の状況が変わってきていますから、医者や弁護士といったプロフェッショナルの在り方も変わらなければいけないと。

なぜ、そのような研究をしようと?

会社員時代、法務部で弁護士と一緒に働きながら、ものすごい知識力と問題解決力に驚いて。一方、派遣社員と話していると法的なリテラシーがないぶん、苦しい状況に置かれていると感じました。その頃、パラレルキャリアといって、会社で働きながらNPO団体にも関わっていたのですが、そんな活動をするうちに、プロフェッショナルである弁護士とNPO団体のように課題を抱えている人たちの接点が作れないかなと思うようになって。それを教育で解決できないかなというのが、この研究をするに至った経緯です。

その研究と並行して会社を立ち上げ、実践を積まれていますね。

京都に来た当初は全く人脈がなかったのですが、SNSやイベントなどで知り合った人や学生に声をかけて「はたらくと休むを考えよう」というワークショップを開催したら、それが好評で定期開催することになりました。そういった活動を開催する中で収入が発生するので、それなら会社を立ち上げようと。今では、筑波大時代の友人で教員や会社経営をしている仲間からも「うちで講義をして欲しい」と頼まれるんですよ。

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主な事業内容は?

コーチングとコンサルティングです。会社の売り上げを伸ばすためのアプローチや、個人のお客様の「独立したい」といった目標を達成するためのサポートをしています。ウェブ事業もしているので、ウェブサイトを制作し、アクセス解析などもしています。

例えば、業界を変えていきたいというクリーニング店の依頼を受けて、「お客さんの役に経つ情報をブログで発信していきましょう」と話になりました。パソコンをほとんど使ったことのないクライアントさんでしたが、一緒にブログを運営して「今日はこういうお客さんが来ました」「こういったトラブルを解決しました」といった内容をアップしていくと、それを見た遠方のお客様からの問い合わせが増えて、今では車で1時間かけて利用してくれるお客さんもいらっしゃるようになりました。結果的に売り上げもあがったりしています。

アドバイスが売り上げにつながると、やりがいが得られそうですね。

売り上げを伸ばすことも大事な目標の1つですが、いろんな依頼があるのでやりがいがありますね。たとえば塾を運営しているクライアントさんからは、小学生を対象にした算数オリンピックで「生徒に金メダルを獲らせたい」という想いを聞きました。算数オリンピックというのは算数の問題を解いて得点を競う大会なのですが、教育関係者は「優勝なんて狙うのは無理だ」「そんなお金にもならないことを」と諦めてしまう人がほとんどです。

でも僕は、それをできるというクライアントさんの想いを汲んでアドバイスさせていただき、後日「金メダルが獲れました」とご報告頂いて。あの時は自分のことのように嬉しかったですね。

どんなアドバイスをしたのですか?

直接的に「子供たちにこういう指導をしてみては」とアドバイスをするのではなく、指導者自身が適切に考えられる状態を保つこと、考えがズレていないかをチェックすることなどをします。

指導者が最初から「無理だ」「意味がない」と諦めていたら叶わないものなので、「本当に実現できる」ということ、「実現したらどうなるか」という明確なイメージを持っておくことの大切さを伝えたりしますね。

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そういった一押しが、大きな成功につながるのですね。

そうですね。特に心がけているのは、目標を掲げた依頼者本人が「やっぱり無理だ」とコンフォートゾーンに戻ろうとする時に、「僕は諦めていない。まだ可能性がある」と相手以上に目標達成を信じることです。時にはクライアントさんとぶつかってでも、道がそれそうになっているのを軌道修正して、本当にやりたいことを実現して欲しいと全力で臨んでいます。

では今後のビジョンを教えて下さい。

会社員時代から考えている、プロフェッショナルと困っている人をつなげることがまずひとつ。それと、僕が大学で研究しながら仕事をしている理由のひとつでもありますが、アカデミックな研究内容を、企業で活用していきたい。欧米では当たり前のように両者が連携していますが、日本はまだまだ。そこが分断されている今の現状はもったいないと感じます。

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学業と仕事の両立は多忙を極めると想像しますが、なぜ、何のために仕事をしているのか、モチベーションとなっていることは何ですか?

大学の入試問題で、豊かさとは何かについて書かれている本が課題図書だったことがきっかけで、ずっと“豊かさ”というテーマを追いかけ続けているんですね。「豊かな社会、豊かな人生とは何だろう」「人間とは何か」「働く事って何だろう」と考え続けて、自分の中の1つの答えがフランス人作家、サン=テグジュペリの言葉の中にあります。

「真の贅沢は、人間関係という贅沢だ」。この言葉の通り、人間関係や人とのつながりがあってこそ「生まれてきて良かった」と思えるのだと思うと、そういう状況を作っていきたいというのが僕の根本にあります。

そのためにご自身ができることとは?

1つは人と人とがつながれる学びの場を提供すること。無知や無関心が断絶を生んでしまうので、知識を持ったり、相手を知っていくことで、色んな領域がつながっていることにどんどん気付いていくと思っています。それは人生を豊かにしていくことにつながると思います。もっとやりたいことができるということも大切だと思っています。会社でいうと、うちの会社には無理だと諦める風潮をなくすことなのかなと。夢や目標を追いかけたり実現できたりする力を育てていきたいと思っています。そうすれば、きっと豊かな社会が作れるという信念を持って、これからも前に進んでいきたいと思います。

あなたの“つくばウェイ”とは?

豊かなつながり。人間関係が密接で、自然も身近な環境で都内の大学では育めなかったであろうつながりが作れました。

現役大学生や筑波大を目指す人に一言!

大学4年間は色んな世界が見られる猶予のある時間ですから、やりたいことはやって、会いたい人に会っておく。そこで経験したたことは後の人生にきっとつながってくると思います。

プロフィール
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種村 文孝(たねむらふみたか)
1985年生まれ、埼玉県秩父市出身。埼玉県立熊谷高等学校から筑波大学第二学群人間学類へ進学し、心理学を専攻する。卒業目前で内定をいただいていたITコンサルティングの中小企業の内定が白紙となる。翌年、国家公務員試験Ⅰ種を合格するも、株式会社リクルートスタッフィング入社。2013年に同社を退社し、京都大学大学院教育学研究科に入学し、教育学を学ぶとともに、Social School Japanの屋号にて個人事業を開始。2015年、株式会社レスポンシブコンサルティングを設立し、代表取締役社長に就任。人材育成、教育、マーケティング領域にて事業を展開している。 Webサイト http://パラダイムシフト.com
基本情報
所属:株式会社レスポンシブコンサルティング
役職:代表取締役
出生年:1985年
血液型:AB型
出身地:埼玉県秩父市
出身高校:埼玉県立熊谷高等学校
出身大学:筑波大学
出身大学院:京都大学大学院
所属団体、肩書き等
  • 京都大学大学院教育学研究科 後期博士課程
  • 一般社団法人成れる会 理事
  • 成れる会大阪マーケティング塾 代表
  • 任意団体Social Marketing Japan 事務局長
筑波関連
学部:人間学類 2003年入学
研究室:発達心理学・青年心理学研究室
部活動:社会福祉研究会
住んでいた場所:天久保二丁目
行きつけのお店:あじ彩、いのいち亭
プライベート
ニックネーム:たねさん、たねちゃん
趣味:ドライブ、温泉めぐり、ドライブ、日本酒、ワイン、読書、ゴルフ
特技:どこでもすぐに眠れること
尊敬する人:坂本龍馬、吉田松陰
年間読書数:50〜80冊
心に残った本:モモ(ミヒャエル・エンデ著)
心に残った映画:時をかける少女、もののけ姫
好きなマンガ:スラムダンク(井上雄彦著)、マスターキートン(浦沢直樹著)、ワンピース(尾田栄一郎著)
好きなスポーツ:ゴルフ
好きな食べ物:寿司
嫌いな食べ物:梅干し
訪れた国:7カ国
大切な習慣:日記を書くこと
口癖は?:いいですね
座右の銘
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